Toxic・Romance

 店内は木目を基調にした内装で、間接照明が低く、影が柔らかい。カウンター席と半個室がほどよく配置されていて、隣の会話は聞こえそうで聞こえない距離感。仕事帰りの大人たちが、それぞれの疲れを静かにほどいている。

 案内されたのは、壁際の二人掛けの席だった。向かい合うには近すぎて、横並びには少しだけ距離がある。妙に計算された配置に、胸の奥がそわりとする。

 腰を下ろすと、木のテーブルが思ったよりも温かかった。長く使い込まれた跡があって、この店が誰かの日常の延長にあることが伝わってくる。

 運ばれてきたおしぼりで手を拭くと、柚子の香りがほのかに立った。メニューを開けば、派手さはないけれど、どれも丁寧に作られていそうな料理名が並んでいる。

 片桐さんは「何か飲む?」とメニュー表を渡すので「カシスオレンジを」とお願いした。

 やがて運ばれたお酒を片桐さんが私に渡す。煙草を吸っている時に感じたけれど、彼は指が綺麗だ。ハンドモデルをさせたら天下を取れると思う。いえ、失礼しました。顔を含めた身体のパーツ、どこを取っても彼は被写体として完璧だ。
 
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