Toxic・Romance

 人に言えない、その理由は、私と萌生ゆるの境界線ははっきりさせたいという創作側の理由と、どうしても引け目を感じているからという、情けない理由が共存している。

 だからこそ片桐さんの反応は、私をひどく安心させた。その反面、一つの仮説を立てる。

「(わたしを馬鹿にするメリットが無いんだろうな)」

 もしも私が、片桐さんにとって駆け引きの相手になるのであれば、この会話も熱を帯び、意味を持つのだろう。

 カシスオレンジの甘さを堪能しながら、箸の持ち方も、器に添えられた指先も、彼の動作を脳内で文章化できてしまう。

「なんで小説を書こうと思ったわけ」

 温度の通わない質問をもらい「それは……」と、言葉を喉の奥にもぐらせた。片桐さんは空になった私のグラスを引き寄せ「同じものでいい?」と、訊ねるので、こくりと頷く。タイミングを逃す前にもう一度。

「俺には聞く権利があるんじゃないの」

 逃げ場を塞ぐように、彼は正論を翳す。確かに、答えるのが礼儀だろう。

「……そうですね。片桐さんも原因の一つなんで、聞く権利はあります」

「俺?」

 彼は失笑した。自分は完全に蚊帳の外で、まさか矛先を向けられるとは思っていなかったのだろう。
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