Toxic・Romance


 胃のあたりの不快感はまだ澱のように残っているけれど、吐き出したおかげで思考回路はいくぶんクリアになっていた。

 あれから、私は片桐さんに文字通り担がれるようにしてトイレまで運ばれた。それまで我慢できたのは、不幸中の幸いと言うべきか。けれど、年頃の女性であれば一生隠し通したいような無様な姿を、彼は余すところなく見届け、そのすべてを甲斐甲斐しく世話されてしまった。

「(……もう、お嫁にいけない……!!)」

 おかげでベッドの上の大惨事という事態だけは免れたものの、私という個人の尊厳は、プリンスホテルの排水口へと虚しく吸い込まれていった。

「あ、あの、つづきは……」

 真っ白な枕を抱え、ベッドの上で正座したまま、彼の背中に伺うように問いかける。

「萎えた」

「……な、萎えた!?」

 聞いたことも、ましてや自分に向けられたこともないネガティブな単語の意味を、私は必死に咀嚼した。

「それはその、私に女性としての魅力がないということですか」

 しかし、片桐さんからの返事はない。シーンとした空気と、低く唸る空調の音だけが私の虚しさを加速させる。

「(無視された!? 目の前にいるのに、無視された!!)」

 度重なるショックで、今度こそ眩暈がしそうだった。
< 68 / 249 >

この作品をシェア

pagetop