Toxic・Romance

 片桐さんは肩に掛けていたネクタイを払うと、ベッドに後ろ手をついた。確かにその背中には、先ほど私を圧倒した重圧も、鋭さもない。

「(……今度、なにかお詫びしなきゃ……)」

 それより、正しい恋愛を教えてって言われたけれど。それってやっぱり、小説を通してってことだよね。

 私が混乱した頭で、趣味のことを考え始めたとき、彼がふいにつぶやいた。

「なあ、確認ついでにひとつ聞いてもいい」

「はい! なんでもどうぞ!!」

「もしかして、処女?」

「…………」

 なにも答えられなかった。それが、何より饒舌な回答だったとおもう。

「まじか」

 心底呆れたような、けれどどこか面白がるような声が鼓膜に転がる。

「だ、だましたわけじゃないですよ!? 聞かれなかったから言わなかっただけで、知識はちゃんとありますし!」

「あるんだ」

「いや、あの、それはその……ほら、資料として必要な場合もあって」

「資料」

「でも、大事にする年齢でもないし、全然、ひと思いにやっちゃってください」

 語れば語るほど、自分の浅はかさが露呈していく。  そんな私を見て、彼は低く、喉を鳴らすようにして言った。

「あんた、面白いね」

 その言葉には、仕事上の評価とは関係なく、もっと個人的な関心が混ざっている気がした。
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