Toxic・Romance
その手が、ガラス細工のように綺麗な指先が、そっとわたしの顎に触れ、強引にうえを向かせた。冷たい指先が熱を帯びた肌を這う。
「早く。昼休み、終わるよ」
意を決して固唾を飲んだ。喉が小さく上下する。
「……片桐さん」
私の言葉が狭い空間に溶けて消える。片桐さんは目を細め、息を吐いた。
「下の名前で呼べよ」
彼の声がさらに低くなった気がした。
「いつも、ベッドの上では呼んでるっしょ」
頬が一瞬で朱に染まるのを感じた。
「呼んでません! 私を嘘つきみたいに言わないで……!」
片桐さんは私に一歩詰め寄り、耳たぶに唇を寄せた。その吐息が熱い。あついのは、私?
……分からない。
「へえ。じゃあ、嘘じゃないって証明して」
分からない、全然。
「ど、どうやって……」
片桐さんが微笑んだ。静かな、獲物を逃がさない微笑みも見えた。
彼の親指が、私の下唇をゆるりと撫でる。
「今夜お前が俺の名前を呼ぶまで、離してやらない」
そして、掠めるような、ほんの一瞬だけのキス。
「楽しみにしてるよ、夕結ちゃん」
余裕たっぷりの笑みを浮かべた彼は、テーブルに置かれた煙草を受け取ると、ひらひらとそれを翳して喫煙所を後にした。わたしの身体には、香水の香りと唇の余韻が残されていた。