Toxic・Romance
「……また盗み聞き?」
彼は振り返りもせずに、低く、掠れた声で言った。笑っているようで笑っていない。喫煙所の濁った空気が、何故か彼の周りだけ清潔に見えるのは何故だろう。
上下関係で言えば、私は圧倒的な弱者。強く、美しい王者を前に、ひれ伏すしか出来ない平民。私は視線を逸らしたまま、小さく唇を震わせる。
「……私を泳がせているのは、企画のひとの方です」
企画のひとが小さく息を吐く。笑いとも溜息ともつかない音が、耳のすぐ横で零れた。
「ひどいな。また名前、忘れた?」
「覚えてますよ!ひとを、物覚えが悪いみたいに、言わないでください」
企画のひとはゆっくりと顔を寄せ、私の瞳を覗き込むように見下ろす。
「じゃあ、言ってみて」
唇を噛んで黙った。