Toxic・Romance
私は物語を紡ぐことで、その欠けた穴を埋めようとしているのかもしれない。現実では決して手に入れられなかった、二人で一人になるための魔法を、文字に変えて。
「……お礼、言えるわけないか」
片桐さんが提供してくれるのは、あまりに鮮やかで、毒のような恋愛の断片だ。それを受け取るたび、私の内側にこびりついた過去の自分が、暗い底からじっとこちらを見上げているような気がした。
𓂃 𓈒𓏸
週明けの月曜日。どんよりとした曇り空の下、私はいつものように出社した。 けれど今日は、そのまま自分のデスクに向かう勇気がなくて、出勤前に利用するカフェに吸い込まれるように向かった。
このオフィス街のどこかが居城なのだろう、スーツ姿の人達に混じって列に並び、ソイラテを注文して、受け取り口で待つ。
「おはよう」
「っえ」
鼓膜に届いたのは、先日、私の意識を朦朧とさせた甘だるく低い声。
心臓が跳ねた。わたしの後ろに立っていたのは、紛れもない片桐馨だった。
仕立てのいいネイビーのスーツを完璧に着こなし、片手にはタブレット。彫刻のように整った横顔は、朝から隙ひとつない。