Toxic・Romance

 元来、抗議しようと思っていたのに、塗り替えられた約束のせいですっかり忘れて頭を抱えた。見返してやろうと、17時までに30案、死ぬ気で提出した。時間ギリギリではあるものの、文句はないだろう。


 《ご苦労さま。次もよろしく》


 人の苦労も知らない塩人間からのねぎらいは一言だけだった。次回は来月以降にお願いします、と言いかけてやめた。無駄な努力はしない方がいい。

 金曜日まで、私の心臓はずっと凪ぐことを知らなかった。いい意味でも、わるい意味でも。

 仕事をしていても、お姉さま方の噂話を聞いていても、作品に感想をもらっても、意識の隅っこには常に片桐さんとの約束が過ぎったのだ。

「(……私は素材をもらう側で、あの人は提供する側、その見返りなだけ)」

『そのうち、俺がもらうけど』

 自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、いつかの言葉が蘇って、呼吸が浅くなる。

 そのうちが来るの、早くないですか……!

 いや、まだ確定した訳じゃないよね……。

 期待しているわけじゃない。あんなクズ、性格も口も最悪な男に惹かれるなんて作家として以前に人間としてどうかしている。だからきっと、これは脳が錯覚しているだけ。

 
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