Toxic・Romance
「……っ、まただ」
画面の中、私が紡ぐ物語のヒーローの薫がヒロインの逃げ道を塞ぎ、傲慢な理屈で翻弄し、それでいて時折、子供が甘いお菓子を欲しがるような無防備な顔を見せる。
そして私は、薫の行動に振り回されるヒロインの気持ちをまるで自分の事のように描写できてしまう。現に《すごくリアルで、共感できます》《感情移入しちゃう》と、読者の声が、その数が、結果として残されている。
複雑な感情を嘲笑うように、『著作権、払えよ』と、脳内で再生される彼の声。私はたまらずキーボードを叩く手を止めた。 物語の中に逃げ込んでいるつもりなのに、そこには既に彼がいて、手招きをしている。
その思考を振り払うように頭を振る。 これは、仕事のストレスから逃れるため、それから、あの透明な孤独を埋めるための作業で、自分を強くするための趣味で、彼のことは参考にするだけのはずだった。
ボーダーラインは間違えないようにしないと……。
睡眠がままならないまま金曜の朝を迎えた。鏡に映る自分の顔は、案の定ひどいくまができていた。
「こんな感じで大丈夫かな……」
不安を厚めのコンシーラーで塗りつぶす。