Toxic・Romance
「おつかれ」
待ち合わせは前回と同じ時間、同じ場所。予定よりも五分ほど遅れた片桐さんは現れるとすぐに「またせてごめんね」と、やんわりと微笑んだ。優しいテノールが耳に毒だ。
「お疲れさまです。待ちましたよ、私」
「うん。だからお詫びに、今日は俺がおごるよ」
「えっ」
嫌味のつもりが、思わぬカウンターだ。
「今夜はなんの気分?」
彼の笑顔はいつも、余力が残されているように思う。私なんていつでも食べれますよ、と言わんばかりに。
「片桐さんが食べたいもので良いですよ」
「俺は月島さんに合わせるよ。月島さんのおかげで毎回スムーズに仕事が出来ているから、お礼を兼ねて」
言葉の節々に、私を甘やかすような響きが混ざる。
「(あれ?接待かな?)」
まさか、私の機嫌を取って無茶振りを増やすつもりか。
内心のとまどいを隠しながら、探るように言葉を続けた。
「お忙しそうなので、今日は流れたのかなって思いました」
「まさか。楽しみで昨日は眠れなかったよ」
離せば飛んでいきそうな、風船みたいに軽い言葉にさそわれる私ではない。
「(絶対に嘘だ……)」
なぜなら、彼という人間を私は理解しているつもりだ。