Toxic・Romance
片桐さんの喉仏が上下すると、吐き出したその呼吸音がしずかに響く。ゆるやかに、煙草の香りが充満する室内の中、私はこの状況を咀嚼する。
「(片桐さんはきっと、私が全力で拒めば、尊重してくれるんだろうな)」
だから私は彼を許しているのだと思う。それとも、これも片桐さんの手中?けれど、いずれにせよ彼にとってお利口な女性でいつづけるのは癪だ。どうしても。
「……今日のこと、書いていいですか?忘れないうちに」
ということで、趣味に走ることにした。片桐さんは「どうぞ」と短く返す。ベッドに腰掛けて、スマホを取り出した。
「……打つの、早」
不意に、片桐さんの声が耳元に届いた。メモに落とす際、私の思考回路はほぼ機能しない。
「早く書かないと忘れちゃうんですよ。鮮度が命なんです」
「へえ、そうなんだ」
興味なさそうに言いつつも、彼は背後から私の肩に顎を乗せてきた。びっくりして手が止まった。これは必然。
「いや、あの、近い……」
「まあ、近いね」
「近すぎです」
「もっと近くなる予定、じゃないの」
「少し離れて欲しいです」
「あー……それは無理かも」
逃げようとする私のからだを、彼は大きな手でがっちりと抱きしめ、耳たぶにキスが落ちた。まるで呼吸をするように私の拒絶は封じられていく。