Toxic・Romance
違和感。ああ、そうだ。煙草のにおいで目がさめた。寝転んだ状態で、うすぐらい室内を見渡す。ベッドの縁で、片桐さんの後ろ姿が見えた。その姿はブルーライトに照らされていた。
くゆらせた煙草の煙が一瞬だけかたちをとどめ、あっという間に跡形もなくきえていくのを、ぼんやりと見ていた。
裸だったはずの彼の上半身はすでに着衣されていたし、それは私も同じだった。
自分至上最速で記憶を巻き戻した。
してない。ぜったい。絶対に絶対に、さいごまでしてない。
「起きた?」
首だけ、片桐さんはゆるく振り返った。いたたまれなくて、もうしわけなくて、視界がなみだでにじんだ。
「ごっ……ごめんなさい!!!昨日、ぜんぜん眠れなくて……つい」
手を突き出して額をベッドに擦りつける。すぐに衣擦れの音が鼓膜に触れた。片桐さんにうながされて、上体を起こす。
「小説に熱中してた?」
親指でわたしの目元をなでた片桐さんは、わたしの趣味をなぞる。けれど、正解とはならない。うろうろと視線をおよがせ、下を向いた。みだれたシーツが惨めで、恥ずかしくて、消えたくなった。