【連載版】愛されない当て馬妻に転生したので、読者として推しの物語を堪能することにした。
「何故君がここにいるんだ!!」
「あれ? ナチ様に聞いてません?」
危ないだろうと焦ったような声をあげるクラヴィルとは対照的にきょとんと首を傾げるステイシー。
「後方支援で呼ぶかも、とは聞いていたが」
「なら、なんの問題もありませんね! 旦那さまより後ろにいますし」
三歩も後ろです! とステイシーは悪びれることなく親指を立てる。
後方支援とは、と定義が迷子になりそうなクラヴィルに、
「装置もなく人や魔力を転移させられるなんて離れ業ができるの、ナチ様だけなんです。人命救助第一なので、コチラは私で我慢してください」
そう言ったステイシーはビシッと杖を構える。
「それに私、結構やる奴ですよ?」
『ガォオオオオオーーー』
先端についた丸い濃紺の魔法石は閉じ込められた魔力がまるで星のようにキラキラと光っている。それを寄越せ、とばかりに雄叫びを上げたミズチの後方から水龍が襲いかかってきた。
「迎え撃て。"濁流"」
さらりと宙に魔術式を描いたステイシーが詠唱するとそこから凄まじい勢いで水が吹き出し、水圧で水龍を真っ向から押し返す。
水飛沫を浴びながら、
「なるほど、これは確かに厄介ですね」
ステイシーは魔法陣に何かを書き足す。するとぶつかり合った水は霧のように消えた。
「これは、一体」
「水を介して魔力を無効化するようなので、生成式を読み解いて同じモノをあちらに混ぜただけですよ」
ここにある水は循環してますから、とサラッとステイシーが解説したところで、ミズチの鋭い爪がステイシーの杖を狙い振り下ろされた。
が、それが届くより早くステイシーを抱え上げたまま地を蹴ったクラヴィルは木の上に回避する。
「だ、旦那さま!」
驚いたように見開かれた栗色の瞳に、またやってしまったとバツの悪そうな顔を浮かべたクラヴィルは、
「あとでどんな責苦も聞くから、今、頭突きと無視は勘弁してほしい」
とステイシーに真顔で懇願する。
「……。旦那さま、そういうとこですよ」
残念なイケメンとはクラヴィルのためにある言葉では、とわざとらしくため息をついたステイシーは、
「ありがとうございます。助かりました」
素直に礼を述べ、そのまま杖を振り翳す。宙に魔術式が浮かび、そこから放たれた水流はまるで鋭い刃のように岩を砕き木に向かってきたミズチを足止めした。
「水魔法でこんなことが!?」
「まぁ、いけるかなーって今思いついて描いた魔法式なので」
まだ微調整が入りますね、とステイシーは不服そうな声で答える。
「今思いついたって。それに水が岩を砕くなんてどういう原理で……?」
魔術師との付き合いはそれなりに長いがこんな技は見たことがない。そもそも水魔法はあまり攻撃には向かないはずなのにと驚きの声を漏らすクラヴィル。
見たことがないのは当然だ。水魔法に風魔法で超高速の振動を加えたそれは、前世でいうところのウォーターカッターのようなモノ。
魔法はイメージが大事なので、そうできると知らなければ魔術式は作れない。
が、それを説明する適切な言葉が見当たらなかったので。
「パッとしてシュッてしてガッて感じです!!」
と、ステイシーはドヤ顔で答えた。
普段何かを語る時のステイシーは噛みそうなほどの長台詞なのに。
おそらく魔術はステイシーの専門なのに。
擬音語オンリー。そして何故かそれでいけると自信満々なその顔を見て、語彙力どこに落として来た、と思わなくもないけれど。
ギャップ萌え、と言っていたステイシーの説明を思い出し、
「……そうか」
クラヴィルは楽しげに口元を緩めてステイシーの頭にポンポンと手を置く。
「旦那さま、私のことバカにしてません?」
ジト目で拗ねたように見返してくるステイシーに、
「してない、してない」
耐え切れずクラヴィルは肩を震わせる。
このやり取りが妙に懐かしく、そしてステイシーが側にいるのが日常になっていたのだとクラヴィルは急に実感する。
『心を揺さぶられる相手に出会ったら手放しちゃダメですよ』
きっと、こんな"当たり前"を手放さないために自分は剣を取ったのだろうと今なら思う。そのためにも、為すべきことをなさなくては。
「ステイシー。ここからでも魔法は組めるか?」
援護を頼みたい、とクラヴィルはまだまだやる気満々のミズチを目で捉えステイシーにそう告げる。
「できます」
お任せください、と頷いたステイシーは、
「ただ魔術師30人分の魔力とはいえ、結界の維持で皆さま消耗なさっていたのであまり長く持ちそうにはありませんし、そもそも私戦闘向きではありません。なので、ミズチを足止めする魔術式を構築するのに30秒ほど時間を稼いでいただけますか? あと……」
言い淀んだステイシーの目を見て続きを促したクラヴィルに、
「こんなこと旦那さまにお願いするのはお門違いなのかもしれませんが……あまり、苦しませないであげてください」
と悲しげな表情でぽつりと呟いた。
「苦しいのだと、降り続く雨のように泣いていて。ずっと、泣き止まなくて」
水を介して感情が流れ込んで来たなんてきっと理解されないし、そんなこと気にしている場合かと一蹴されてしまってもおかしくないのに。
あまりにも悲痛な叫び声に告げずにはいられなかった。
クラヴィルは目を伏せてしまったステイシーの髪を軽く撫でる。
「旦那さま?」
「分かった。善処する」
神妙な面持ちでステイシーのお願いを引き受けたクラヴィルは、
「君はここから動かないように」
そう釘を刺して木から飛び降りた。
クラヴィルはそのまま宙で剣を抜く。速さと身軽さを重視して磨いてきたクラヴィルは無駄のない動きでそのままミズチに高速多段攻撃を仕掛け、ミズチの攻撃をすべて躱す。
浅い傷をいくつも与えながら、ミズチの放つ攻撃を見切りカウンターを喰らわせた。
「"重量水鎖"」
ステイシーの詠唱と共に魔法が構築し、それはまるで水の鎖のようにミズチに絡み付いて地に縛りつける。
ミズチの足止めは僅かな時間でしかなかったけれど、クラヴィルには十分だった。
「これで最期だっ!!」
人類最速と謳われるクラヴィルの一撃。
それは傷つき消耗した魔物が対抗できる速度ではない。
クラヴィルによって四肢の腱全てを破壊されたミズチはその巨大な体を支えられずドシンッと大きな音を立てて崩れ落ち、地面を揺らした。
立っていられないほどの衝撃が落ち着き、霧が晴れ視界が広がる。
静寂の中に浮かび上がったのは巨体を横たえたままぴくりとも動かなくなったミズチと剣を構えたまま立っているクラヴィルの姿。
「終わっ……た?」
どこからともなく上がったその声は、瞬く間に騎士達の間に伝播し、勝利を喜ぶ大きな歓声となって広がった。
あたりはすっかり闇色に染まっていて、雨雲が流れた空には星が瞬く。それを見てようやく長い戦いが終わりを迎えたのだとステイシーは実感する。
「旦那さまっ!!」
ずっと後方支援に回っていたステイシーは、クラヴィルの無事を確かめたくてすぐさま彼に駆け寄った。
「ご無事で」
「ステイシー!!」
ステイシーの言葉は鋭いクラヴィルの声に掻き消され、強い衝撃とともに地面に叩きつけられた。
「……えっ?」
尻餅をついたまま、見上げた光景にステイシーは言葉を失う。
クラヴィルの足元には血溜まりができており、切り裂かれたその体躯からは今も止めどなく血が流れている。
むせそうな鉄の匂いが鼻をつき、ステイシーの体は凍りつく。クラヴィルが今立っている場所は、先程までステイシーがいたところだった。
「あれ? ナチ様に聞いてません?」
危ないだろうと焦ったような声をあげるクラヴィルとは対照的にきょとんと首を傾げるステイシー。
「後方支援で呼ぶかも、とは聞いていたが」
「なら、なんの問題もありませんね! 旦那さまより後ろにいますし」
三歩も後ろです! とステイシーは悪びれることなく親指を立てる。
後方支援とは、と定義が迷子になりそうなクラヴィルに、
「装置もなく人や魔力を転移させられるなんて離れ業ができるの、ナチ様だけなんです。人命救助第一なので、コチラは私で我慢してください」
そう言ったステイシーはビシッと杖を構える。
「それに私、結構やる奴ですよ?」
『ガォオオオオオーーー』
先端についた丸い濃紺の魔法石は閉じ込められた魔力がまるで星のようにキラキラと光っている。それを寄越せ、とばかりに雄叫びを上げたミズチの後方から水龍が襲いかかってきた。
「迎え撃て。"濁流"」
さらりと宙に魔術式を描いたステイシーが詠唱するとそこから凄まじい勢いで水が吹き出し、水圧で水龍を真っ向から押し返す。
水飛沫を浴びながら、
「なるほど、これは確かに厄介ですね」
ステイシーは魔法陣に何かを書き足す。するとぶつかり合った水は霧のように消えた。
「これは、一体」
「水を介して魔力を無効化するようなので、生成式を読み解いて同じモノをあちらに混ぜただけですよ」
ここにある水は循環してますから、とサラッとステイシーが解説したところで、ミズチの鋭い爪がステイシーの杖を狙い振り下ろされた。
が、それが届くより早くステイシーを抱え上げたまま地を蹴ったクラヴィルは木の上に回避する。
「だ、旦那さま!」
驚いたように見開かれた栗色の瞳に、またやってしまったとバツの悪そうな顔を浮かべたクラヴィルは、
「あとでどんな責苦も聞くから、今、頭突きと無視は勘弁してほしい」
とステイシーに真顔で懇願する。
「……。旦那さま、そういうとこですよ」
残念なイケメンとはクラヴィルのためにある言葉では、とわざとらしくため息をついたステイシーは、
「ありがとうございます。助かりました」
素直に礼を述べ、そのまま杖を振り翳す。宙に魔術式が浮かび、そこから放たれた水流はまるで鋭い刃のように岩を砕き木に向かってきたミズチを足止めした。
「水魔法でこんなことが!?」
「まぁ、いけるかなーって今思いついて描いた魔法式なので」
まだ微調整が入りますね、とステイシーは不服そうな声で答える。
「今思いついたって。それに水が岩を砕くなんてどういう原理で……?」
魔術師との付き合いはそれなりに長いがこんな技は見たことがない。そもそも水魔法はあまり攻撃には向かないはずなのにと驚きの声を漏らすクラヴィル。
見たことがないのは当然だ。水魔法に風魔法で超高速の振動を加えたそれは、前世でいうところのウォーターカッターのようなモノ。
魔法はイメージが大事なので、そうできると知らなければ魔術式は作れない。
が、それを説明する適切な言葉が見当たらなかったので。
「パッとしてシュッてしてガッて感じです!!」
と、ステイシーはドヤ顔で答えた。
普段何かを語る時のステイシーは噛みそうなほどの長台詞なのに。
おそらく魔術はステイシーの専門なのに。
擬音語オンリー。そして何故かそれでいけると自信満々なその顔を見て、語彙力どこに落として来た、と思わなくもないけれど。
ギャップ萌え、と言っていたステイシーの説明を思い出し、
「……そうか」
クラヴィルは楽しげに口元を緩めてステイシーの頭にポンポンと手を置く。
「旦那さま、私のことバカにしてません?」
ジト目で拗ねたように見返してくるステイシーに、
「してない、してない」
耐え切れずクラヴィルは肩を震わせる。
このやり取りが妙に懐かしく、そしてステイシーが側にいるのが日常になっていたのだとクラヴィルは急に実感する。
『心を揺さぶられる相手に出会ったら手放しちゃダメですよ』
きっと、こんな"当たり前"を手放さないために自分は剣を取ったのだろうと今なら思う。そのためにも、為すべきことをなさなくては。
「ステイシー。ここからでも魔法は組めるか?」
援護を頼みたい、とクラヴィルはまだまだやる気満々のミズチを目で捉えステイシーにそう告げる。
「できます」
お任せください、と頷いたステイシーは、
「ただ魔術師30人分の魔力とはいえ、結界の維持で皆さま消耗なさっていたのであまり長く持ちそうにはありませんし、そもそも私戦闘向きではありません。なので、ミズチを足止めする魔術式を構築するのに30秒ほど時間を稼いでいただけますか? あと……」
言い淀んだステイシーの目を見て続きを促したクラヴィルに、
「こんなこと旦那さまにお願いするのはお門違いなのかもしれませんが……あまり、苦しませないであげてください」
と悲しげな表情でぽつりと呟いた。
「苦しいのだと、降り続く雨のように泣いていて。ずっと、泣き止まなくて」
水を介して感情が流れ込んで来たなんてきっと理解されないし、そんなこと気にしている場合かと一蹴されてしまってもおかしくないのに。
あまりにも悲痛な叫び声に告げずにはいられなかった。
クラヴィルは目を伏せてしまったステイシーの髪を軽く撫でる。
「旦那さま?」
「分かった。善処する」
神妙な面持ちでステイシーのお願いを引き受けたクラヴィルは、
「君はここから動かないように」
そう釘を刺して木から飛び降りた。
クラヴィルはそのまま宙で剣を抜く。速さと身軽さを重視して磨いてきたクラヴィルは無駄のない動きでそのままミズチに高速多段攻撃を仕掛け、ミズチの攻撃をすべて躱す。
浅い傷をいくつも与えながら、ミズチの放つ攻撃を見切りカウンターを喰らわせた。
「"重量水鎖"」
ステイシーの詠唱と共に魔法が構築し、それはまるで水の鎖のようにミズチに絡み付いて地に縛りつける。
ミズチの足止めは僅かな時間でしかなかったけれど、クラヴィルには十分だった。
「これで最期だっ!!」
人類最速と謳われるクラヴィルの一撃。
それは傷つき消耗した魔物が対抗できる速度ではない。
クラヴィルによって四肢の腱全てを破壊されたミズチはその巨大な体を支えられずドシンッと大きな音を立てて崩れ落ち、地面を揺らした。
立っていられないほどの衝撃が落ち着き、霧が晴れ視界が広がる。
静寂の中に浮かび上がったのは巨体を横たえたままぴくりとも動かなくなったミズチと剣を構えたまま立っているクラヴィルの姿。
「終わっ……た?」
どこからともなく上がったその声は、瞬く間に騎士達の間に伝播し、勝利を喜ぶ大きな歓声となって広がった。
あたりはすっかり闇色に染まっていて、雨雲が流れた空には星が瞬く。それを見てようやく長い戦いが終わりを迎えたのだとステイシーは実感する。
「旦那さまっ!!」
ずっと後方支援に回っていたステイシーは、クラヴィルの無事を確かめたくてすぐさま彼に駆け寄った。
「ご無事で」
「ステイシー!!」
ステイシーの言葉は鋭いクラヴィルの声に掻き消され、強い衝撃とともに地面に叩きつけられた。
「……えっ?」
尻餅をついたまま、見上げた光景にステイシーは言葉を失う。
クラヴィルの足元には血溜まりができており、切り裂かれたその体躯からは今も止めどなく血が流れている。
むせそうな鉄の匂いが鼻をつき、ステイシーの体は凍りつく。クラヴィルが今立っている場所は、先程までステイシーがいたところだった。