『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
 夏の夜の風物詩『花火』――物語
45 ◇花火


 お盆休みの3日めも、息子たちを連れて夕方から美代志くんの家へ
押しかけた。

 自宅から持ってきた花火の袋を抱えながら、庭へ出ると、夜風がそっと
頬を撫でていった。


 
          ◇ ◇ ◇ ◇

 実は会社で、盆休みに家で息子たちと花火をすると同僚に話をすると
親戚からもらった花火があるからあげるよと言われた。

 少し足りないかと思い、私もスーパーで少し入手した。

 先っちょが銀色で勢いが強くて持ち手の長いのも20本ほど買い、後は
線香花火を20本ほど買った。

 そして、いただきものの花火20本も袋に入れて持ってきた。


 水を入れたバケツとローソク、そしてマッチを揃えて、花火大会が
はじまる。

 庭の片隅に据えた太いろうそくに、火を灯す。

 ……と、その瞬間、オレンジ色の光がぱっと広がり、そのあと、
炎は細く揺れた。

 その光に照らされた皆の顔が嬉しそうで、由香の胸も高鳴る。


❀勢いのある手持ち花火は、まず男子3人が奪い合うようにして、
わあっと歓声を上げながら振り回す。

 火花が夜気の中に何度も弧を描き、目に焼き付けられていく。
 この時、私は夏を強く感じた。

 
 「次は線香花火ね」

 そう言うと、3人は一斉にこちらを見た。
 花火といえば、やっぱりこれだ。
 
 先にいただきものの線香花火を取り出し、私も輪に加わる。

 火をつけると、息子たちは胸の前に花火を構え、笑い声をあげながら
グルグル回して楽しんだ。

 やがて、ふざけ合いもおさまり、4人とも自然と腰を下ろして、
線香花火が燃え尽きるまでじっと(灯(ともしび・あかり))を見つめ続けた。🎆

 ぱち…ぱち…と、かすかな音。

 赤い火玉が少しずつ丸みを帯び、その周りで細い火花が、まるで意志を
もっているみたいに散った。

 すごく、幻想的できれいだった。

「……きれいだな」
 美代志くんが、誰に言うでもなくぽつりとこぼす。
 その声が、夜の静けさの中で淡く響いた。


 火玉は、最後の瞬きまで命を使い切るように輝き、儚げに……
地面に落ちて消えた。
 
 しばらくの間4人は、暗闇の中で散りゆく小さな灯りを、息を潜めて
見送り、余韻を堪能した。


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