『愛をください』─ 叶わぬ想い ─
61 ◇鍋本俊郎 × 里中美代子  山本百合子(結婚相談所スタッフ)


今日は定時あがりで、里中さんと待ち合わせをし、食事をしてからの帰宅。

彼女とは通勤路線が同じこともあり、土、日と続けて会えない週は、平日の夜
会ったりして2人の時間を確保している。

前回紹介された満島さんとはいい感じで手ごたえを感じたので、彼女とは3回しか
会っていたなかったが、交際の申し入れをした。

だが、以外にも玉砕。

凹んでいた俺を慰めるために、あるスタッフがこっそりと耳打ちしてくれた。

「決して、お相手の方は鍋本さんに対してピンとこなくてお断りしたのでは
なさそうですから、ガッカリしないで……。
積極的に次、すぐ行きましょう」と。

「もしかして――――横やり入りました?」

「そ、そんな感じですね」

「もちろん、僕のあとからですよね? 申し込みがあったのは」

彼女は軽く首を縦に振ったあと
「こういうことは、お話してはいけないことになってるので……」
と、言葉にはしなかった。

「分かりました。次、良い方がいたらご紹介ください」

「かしこまりました」

「参ったなぁ~。あとから申し込んだ奴にかっさわられたのかぁ~」


かなり凹んだけれど、気を取り直しそのあとで――――
再度数人同士での出会いの場に参加。

当日、前回同様数人の女性と順番に言葉を交わしたが、まだ、誰にしようかと
決められずにいた。

そんな自分に、翌日早々、里中美代子さんから交際の申し入れがあった。

一度も2人きりで会っていないのに――――。
そんな不安もあったが、振られた直後だっただけに、正直うれしかった。

そんなこんなで、俺は里中さんに気に入られ、そのまま交際は順調に進んでいる。

そして、この状況下で、アドバイザーの山本さんからのメール。
今回の申し込みって、水島さんのことだよね~。
  

多人数交流で最初に言葉を交わし合った日、里中さんに特に惹かれたりと
いうことはなかった。

一回のデートもなくいきなりだったけど、申し入れをしてもらい、
それから週に2回ほど会ってお互いの気持ちを確かめ合っているわけだが……。

彼女は、26才でエレクトーンの先生をしている女性(ひと)

流石に一度もデートなしで、成婚を前提というのはないなと思い、一度
デートをした後で返事をした。


どうして、最初から里中さんの魅力に気づけなかったんだろうなぁ。

彼女は、話し方や立ち居振る舞いが柔らかくチャーミングで、言葉の端々にも
可愛げのある人で――。

気づけば、里中さんのことを思い出す時間が増えていた。

もしかすると、今では自分のほうが、より好きな気持ちが強くなって
いるかもしれない。

これって、山本さんからのメールで分かったこと。

好きになって交際の申し入れをした水島さんに対する気持ちが、あっさりと
自分の中で小さくなっているのを感じられたからだ。

里中さんとだって、途中で何かアクシデントが生じて、成婚までいけない可能性だって
あるかもしれないが、今の段階で里中さんを捨て置いて水島さんに乗り換える選択肢は
ない。

俺は、いろいろと悩んだ末、俺のためにわざわざ連絡をくれたアドバイザーの山本さんへ
自分の今の気持ちを綴り、併せてお礼のメールを返した。

送信後――――。

後悔も未練もなく、ただ……ほっとした。


 
 
 








 
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