俺様辣腕社長の甘い執愛~マッチングアプリなんて信じません!~
 思わず、その場から逃げ出した。無我夢中で駅まで走って、そのまま電車に飛び乗る。

(なんで? なんであの子があそこにいるの?)

 智紀と一緒にいたのは会社の後輩──入社二年目の相澤玲奈だった。結衣と同じフロアにある営業部にいるので、何度か言葉を交わしたことがある。

 訳が分からない。だけど、確実にわかったことがひとつ。

 ──智紀にとって、結衣はこの程度の存在だということだ。

 視界が滲み、涙が零れ落ちる。

(私、バカだな)

 どうしてよく知りもしない男性のことを「きっと運命の人だ」なんて思ったのだろう。
 自分のバカさ加減に嫌気がさした。


 ──翌朝。

 鏡に映る自分の姿に、結衣は思わず溜息をついた。

(ひどい顔……)

 泣きはらした目元は、メイクではどうにもならなかった。お洒落する気持ちにもなれず、服選びもおざなりになる。
 セールで買ったプチプライスのカジュアルシャツとパンツを掴み、黙々と着込んだ。

 誰にも会いたくない──そんな気分だったけれど、こんなことで会社を休むわけにもいかない。働いて稼がなければ生きていけないのだから。
< 5 / 85 >

この作品をシェア

pagetop