俺様辣腕社長の甘い執愛~マッチングアプリなんて信じません!~
4.誤解と喧嘩

4-1

 秘書部配属初日。
 きちんとした印象を与えるスーツを着た結衣は、緊張の面持ちでフロアの前に立った。
 フロアにいる全員からの視線が顔に刺さる。

「総務部から異動してきました、横溝結衣です。秘書業務は初めてですが、精いっぱい頑張ります。よろしくお願いします」

 ぺこりとお辞儀をすると、パチパチと周囲から拍手が。
 最初の難関、異動の挨拶は乗り越えたと、ほっと胸を撫でおろす。
 ひとりの女性が「横溝さん、こっち」と手招きをした。肩ぐらいまでの髪を卸した、穏やかそうな人だ。年齢は30代前半くらいだろうか。

「はじめまして。田中といいます。よろしくね」
「こちらこそよろしくお願いします」

 慌ててお辞儀を返して頭を上げたそのとき、結衣は彼女のお腹がふっくらしていることに気づく。

(あ、もしかしてこの人)

 以前課長に、結衣の異動は産休に入る人がいるので急遽決まったと聞いた。きっとこの人のことなのだと思う。

「横溝さんには基本的に私のやっていた仕事を引き継いでもらいたいの。短い間だけど、横溝さんの教育担当をやらせてもらいます」
「はい。よろしくお願いします」

 予想通りだ。結衣はもう一度、軽く頭を下げる。

「早速だけど、私の仕事は社長秘書の副担当になの」

 田中は続ける。
「…社長秘書の副担当?」
「うん。社長の主任秘書は経営企画室の田端室長が兼務でやっているんだけど、田端さん自身も多忙だから補佐が二人付いているの。もうひとりは今社長に同伴してるからあとで紹介するわね」

 にこにこしながら説明する田中の話を聞きながら、結衣は内心でショックを受ける。

(よりによって、なんで社長付きなの……。しかもあの人──田端室長の部下だなんて!)

 思わず顔が引きつってしまう。田中はそんな結衣の些細な変化には気付かず、説明を続ける。
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