俺様辣腕社長の甘い執愛~マッチングアプリなんて信じません!~
「皆が年齢や肩書に関係なく気さくに交流して楽しんでいて、なかなか面白い場所だったな。結衣の好みも知れたし、今日は楽しかった。ありがとう」

 お礼を言われ、結衣は俯く。

「どういたしまして」

(嫌われようと思って意地悪したのに、なんで喜んでるのよ)

 後ろめたさを感じて、いたたまれない気持ちになった。


  ***

 
 深夜十一時半。
 帰宅した浩斗は愛犬を撫でながら、今日のことを振り返る。

「なかなか面白い体験だったな」

 正直、連れて行かれてここだと言われたときは驚いた。人生で一度も足を踏み入れたことがないような、小汚い居酒屋だったから。
 けれど、入ってみれば料理はおいしいし店員も気さくで悪い気はしなかった。あんな風に隣の席の人に突然話しかけられて仲良くなることなど、浩斗が普段行っているレストランでは絶対に怒りえないことだ。

「完璧じゃなくていい、か……」

 脳裏によみがえるのは、幼少期の思い出だ。

『浩斗は榊原家の人間なんだから、いつも完璧じゃなきゃだめなのよ』
『弱みを見せちゃだめ』

 母親はいつもそう言って、浩斗に対して厳しく接した。だから、今日の結衣の発言を聞いて、まさに人生の新しい扉を開けたような感覚に陥った。

「横溝結衣……。本当に、変わった奴だ」

 彼女といると、世界が広がるような気さえしてくる。
 いつの間にか、勝負を始めた当初のような苛立ちを感じることはなくなっていた。
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