MR(医薬情報担当者)だって恋します!
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その日、エクサシールWについて沢野先生に情報提供するため、私は駐車場から大学病院まで早足で歩いていた。
「最近の鈴木、機嫌がいいな」
後ろから鈴木の声がした。私は振り向いて、
「そうかな?」
と答える。
「仕事なのに、足取りも軽い。俺は、この仕事、嫌いじゃないけど好きでもないな」
「私は、少しずつ面白くなってきたところかな」
「ふうん」
少し面白くなさそうな鈴木の声。
「そういえば、Queen聞いてみた?」
「うん、聞いてるよ! いい曲ばかり選んでくれてありがとう! 聞いてて飽きない」
鈴木の表情がぱっと明るくなった。
「歌詞は暗いけど、ボヘミアンラプソディーすごく好み! オペラみたいで。メインボーカルの人、とてもいい声だね!」
私が言うと、鈴木はさらに笑顔になった。
「ボヘミアンラプソディーいいよな? 名曲だよな~! メインボーカルの人はフレディ・マーキュリーね。個性の強い人だったみたいだけど、ほんと歌は上手いだろ? そうか、聞いてくれたんだ、良かった」
「沢野先生とも音楽の話するんだ〜」
私が何の気なしに言った言葉に、
「沢野先生と?」
と鈴木の真面目な声が返ってきた。
「最近、沢野先生の部屋に入り浸ってるって話、本当だったんだ」
「入り浸っている?! そんな、そこまでじゃないよ」
「他社MRは面白くないみたいだよ」
まあ、それはそうかもねと思う。
「沢野先生、一応独身だし、長時間二人で部屋にいるってのはどうかと俺は思うよ」
鈴木の低い声に私は驚く。
「部屋って、鍵かけてるわけでもないし、隣も他の先生の部屋だし、そんな変な見方しなくても……」
「前言わなかったっけ? 鈴木、危機感なさすぎって」
鈴木には言われたくないよ、と内心思いながらも、黙ってしまう。
「それに他社のMRに嫌われ過ぎないほうがいいと思うよ? 情報くれなくなる」
「用があるから行ってるんだもん。でも、鈴木がそういうなら気を付けるよ」