MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「どうしたの? 何かあった?」
香澄の気遣う声にまた泣きそうになる。
「ねえ、香澄。男の人って好きでもないのにキスできるのかな?」
「え? 何? 話が全く読めないんだけど」
「あのね。酔った他社MRに初キス奪われた。そして、今日、よくわからないけど、ドクターにキスされた」
「えーと、まだよく状況が分からない」
私は鈴木とのことと沢野先生とのことをかいつまんで話した。
「うーん。酔っ払ってキス、する人時々いるよね。嫌だったの?」
「嫌では……なかったけど、ショックで。ファーストキスだよ? 好きな人としたかった」
「沢野先生のときは?」
「小鳥のキスみたいで、なんだか信じられない。先生はそんなことするタイプじゃなくて、真面目な方だから、キスされる理由がわからなくて」
ううんと香澄は唸る。
「沢野先生のこと、理緒はどう思ってるの?」
「好きなドクターだよ。でも恋愛の好きではないよ。橘先生とはちょっと違う。会うだけで安心する、癒してくれる人」
「うーん。微妙だね。じゃあさ、仮定ね。もし付き合うなら鈴木君と沢野先生どっち?」
香澄の言葉に今度は私が唸った。
「そんな、困るよ。鈴木は大切な友人で、沢野先生は尊敬できる先生。どちらも選べないし、そういうのじゃ……ないから」
香澄は受話器の向こうでため息をついた。
「鈴木君はMRだから、多少ギクシャクしてもいいけど、処方もよくしてくれてるドクターとなると、関係が壊れるのはよろしくないよね~」
「そうだよね」
「自分からは何も言わずに、ドクターの出方を伺うしかないかな〜」
うーんとまた唸りながら香澄は言った。
「うん……」
「それにしても、理緒の大学どうなってるのよ? 私も触られるとかはあるよ? でも、キス……そんなドクターはいないよ」
呆れと興味が混じった声で香澄に言われて私はふうとため息をついた。
「鈴木が言うには、私、危機感がないんだって」
「わかる気するわ。でも、こういうことが度々起こったら身がもたないよ? 本当に危機感もって営業しないと」
「そうだね」
私はもう一度ため息をついた。
「ほら、しっかりして、理緒。もう済んじゃったことだから、どうにもならないよ。これからどうするかでしょ?」
「うん……。でも、沢野先生に会う自信ない……」
「それならしばらく行くのやめたら? 自分の中で、もう会っても大丈夫って思えるまで。まあ、あまりにも長いと営業としてどうかとは思うけど」
「そうだね……。少し距離を置いて、また顔だそう」
「うん。それにしても、理緒、キスしたことなかったのね。ウブな奴だ」
香澄がくすくす笑いながら言った。
「彼氏いたことないんだから、しょうがないじゃん」
「最近帰りも一緒に帰れてないし、休日ご飯でも行こっか。理緒ストレスたまってるから」
「うん、行く!」
「じゃあ、それを楽しみに、頑張って!」
「そうだね。頑張る」