MR(医薬情報担当者)だって恋します!

***


 鈴木に返事をしたということは、沢野先生へも返事をしなくてはならないということで。
 しかも沢野先生は結婚を希望しているのだ。断るなら早く断って次に進んでもらいたい。
 そう頭では思っても、断るというのが苦手な私は沢野先生の部屋に行くのがとても憂鬱だった。

 橘先生とは違う。でも、橘先生の次に思い入れのあるドクター。いきなりキスをされても嫌悪感は覚えず、嫌いになんてとてもなれなかった先生だ。
 その沢野先生を確実に悲しませる。それを考えるだけで胃が痛む。
 3階のエレベーターホールへ上ると沢野先生の後ろ姿が見えた。カンファレンスルームを通って自室へ入ろうとしている。私は深呼吸を一度した。

「沢野先生」

 声をかけると沢野先生はゆっくり振り返って私を見た。やや緊張した顔だった。

「鈴木さん。どうぞ部屋に入って」
「失礼します」

 私は部屋に入ったがなかなか返事を言葉にすることができなかった。
 そんな私に沢野先生は一度目を伏せ、寂しげに微笑んだ。

「いい返事ではなさそうですね」
「……すみません。沢野先生のことは大好きです。やさしくて真面目でとても素敵な先生だと思ってます。でも恋愛感情ではありません。こんな気持ちで結婚を引き受けるのは失礼だと思うんです。だからお断りしようと思います。本当にごめんなさい」

 私は深々と頭を下げた。沢野先生は無理やり微笑んだようだった。
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