MR(医薬情報担当者)だって恋します!

彼女になるということ

 付き合うことになった私と鈴木は傍目には何も変わらなかった。秘密にしているからというのもある。
 変わったことと言えば、毎日帰宅後にメールか電話をするようになったことだ。

『もしもし、俺。今帰った』
「そう、お疲れ様」
『鈴木はどこ?』
「私ももう家」
『そっか』

 なんとなくたどたどしい会話が毎日交わされる。
 この日もそうだったけれど。

『あの、さ』
「うん?」
『沢野先生のところへは行ってるの?』
「……あれからは一度だけ」
『一度? またなんかされては』
「ない」

 私は鈴木の言葉を遮った。

「でも、鈴木には言っといたほうがいいのかな。彼氏になったんだしね」
『な、何?』

 鈴木の緊張した声が返ってくる。

「絶対に誰にも言わないでね。……私、鈴木に告白された日、沢野先生に告白とプロポーズをされたの」

 鈴木は一瞬黙った。そして声を上げた。

『え? えええ!? ちょ、ちょっと待った! プロポーズ?!』
「うん。沢野先生は真面目な方だからキスした責任を取るって」
『ちょっと、分からなくなってきた。プロポーズされたなら、別に俺と付き合う必要ないよな? 結婚承諾したら俺が何言おうが関係ない話で……』

 電話越しでも鈴木の狼狽が伝わってきた。

「そう。だから関係ないって言ったの」
『……。ははっ。俺、とんだお邪魔じゃん』

 鈴木はまた黙り込んでしまった。壁にかかった時計の音だけがかちかちと響く。
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