MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「そこのソファーにどうぞ」
紅茶の香りがしてきた。
「ティーパックので申し訳ないですが」
と言いながら沢野先生がティーカップを私の前とその横に置いた。
沢野先生はしばらく黙ったまま、私の斜め横に座って紅茶を飲んでいた。五分ほど経っただろうか。
「……すみません」
沢野先生は絞り出すように言葉を吐いた。
「僕はなんて勘違いをしていたんでしょう。鈴木さんは僕に好意があるからではなく、信頼をしているからこそこんなにも無防備だったのですよね。それなのに、僕は部屋に来てくださった鈴木さんをこの際になんて、卑劣なことを……」
沢野先生の後悔に沈む顔を見て、私はまた大きな失敗をしたことを悟った。
誤解をさせないためにも私はきちんと断らなければいけなかったのだ。私は自分の考えの甘さを悔やんだ。
「いいえ。沢野先生は悪くないです。私が期待をさせたのが一番悪い。本当に本当にすみません」
私と沢野先生はしばらく二人とも下を向いて、紅茶を飲んだ。重い空気が漂う。
「……その……」
沢野先生が遠慮がちに口を開いた。
「はい」
「鈴木、と名前を呼びましたね、鈴木さん」
私はどきりとした。そうだ。先程とっさに名前を言ってしまった。
「……はい」
「それはもしかして……アオハナさんの鈴木君ですか?」
私は隠せないと思って小さく頷いた。
「そう、ですか……。鈴木さんは鈴木君が好きなのですね」
沢野先生は私の目を静かに見つめて言った。以前の私だったら、「友達として」、なんて言葉を付けたかもしれない。でも、今の私は、
「はい。好きです」
と素直に答えられた。
「迷いのない答えですね。僕の入る隙間は微塵もなさそうだ」
沢野先生は寂しげに笑って下を向いた。
「お付き合いをしているのですか?」
私は答えに戸惑った。でも、沢野先生なら大丈夫だと思い直して、
「はい」
と答えた。
沢野先生は手を組んで、
「今日のことは……?」
と言いにくそうに尋ねてきた。
「鈴木君も知ってます」
「それではさぞかし心配しているでしょうね」
私は苦笑いをして頷いた。
沢野先生は組んでいた手を解いて、大きく伸びをした。
そして、私に再び視線を戻す。
「どこかで、いつかは僕の方を向いてくれるのではと淡い期待を抱いてました。でも、これは潮時ですね。今日で僕は鈴木さんをきっぱり諦めます」
沢野先生は吹っ切れたように微笑んだ。