MR(医薬情報担当者)だって恋します!
ネイビーのパンツスーツを着た夏目さんが駐車タワーの入り口から上ってくるのが見えた。何度か重そうな鞄を持ち直し、前というより下を向いて歩いてくる夏目さんは遠目からでも疲れているのが分かった。
「夏目さん」
私の声に夏目さんははっと顔を上げた。
「鈴木さん……?」
私の表情を窺うような夏目さんの目。
「ちょっとお話、いいですか?」
「出禁の話、聞いたのね? いいわ。私の車の中で話しましょう」
私と夏目さんは並んで駐車タワーの中を無言で歩いた。
「どうぞ。あまり綺麗じゃないけど」
夏目さんが助手席のドアを開けたので私は夏目さんの車に乗り込んだ。ライムのような芳香剤の香りがする。綺麗じゃないという割に車内は片付いていた。
「あの、なぜ出入り禁止になったのですか?」
「谷口先生を怒らせてしまったのよ。講演会の後の食事がお気に召さなかったようで」
私は夏目さんの横顔を見て、本当にそれだけなのだろうかと考える。夏目さんは疲れてはいたが、普段と変わらず何でもないことのように口にしている。
「あの……。本当にそれだけですか?」
私の言葉に夏目さんが私の方を向いた。目が合う。
「他に何があるっていうの?」
私は少し言葉にするのを躊躇ったが、決心した。
「私、見てしまったんです。夏目さんが谷口先生とホテルから出てくるの」
夏目さんの目が泳いだ。
「ホテル? 何かの間違いじゃない?」
「見間違いだといいのですけれど……」
夏目さんはしばらく黙った。
「あの、今回の出禁と関係ないことなら私が言ったことは忘れてください。私も忘れます」
私は沈黙に耐え切れずにそう言って車を降りようとした。
「待って」
夏目さんの声がそれを止めた。