MR(医薬情報担当者)だって恋します!
谷口先生の部屋に入るのは初めてだ。
橘先生の部屋ほど雑然としていないが、沢野先生の部屋ほど片付いてはいない。
「それで、どうしたのかな?」
「あの」
私は一度、唾を飲み込んだ。どうしよう。まだ今なら引き返せる。でも、引き返したくない自分がいる。
「あの、夏目さんはなぜ出入り禁止になったのでしょうか?」
谷口先生の片眉がわずかに上がるのを私は見た。
「ああ、夏目さんのことを気にしていたのかい?」
「はい。同じ女性のMRとしてなんだか気になってしまって……」
「講演会の後に連れていかれたところが気に入らなくてね。夏目さんらしからぬところで」
谷口先生は困ったような笑みを浮かべた。
「それだけですか? それだけで出入り禁止になるのですか? 私は怖いです」
「なに、鈴木さんは大丈夫でしょう。接待をするのは今野さんだしね」
私は黙って床を見つめていた。
どうしよう。このまま納得したふりをしてここを出たほうが身のためだとは分かっている。でも、私は夏目さんのために谷口先生に一矢報いたい。どうしても何事もなかったかのようにされるのは嫌だ。
私は視線を上げて、谷口先生をじっと見た。
「まだ何かあるのかい?」
「先生。私。見たんです」
「……何をだい?」
谷口先生の目がすうと窄まる。私の心臓が口から出そうなほど早鐘を打つ。