MR(医薬情報担当者)だって恋します!


「先生と、夏目さんが、出てくるのを」
「ははは。どこからだい?」
「休日。ホテルからでてくるのを」

 谷口先生の笑顔が消えた。
 しばらく嫌な沈黙が訪れた。

「……講演会の後だったのではないかな?」

 谷口先生は注意深く言葉を吐いたが、沈黙の後ではその言葉は浮いて聞こえた。

「……そう、かもしれません」

 谷口先生は夏目さんの肩を抱いていたけれど、私も断定はできない。

「……誰かにそれを言ったかい?」
「いいえ」
「それで、鈴木さんはどうしたいんだい? ……まさか、僕を脅すようなことはないだろうね?」

 私は驚いて谷口先生を見た。

「まさか! そんなつもりはないです。ただ、ただ……」
「ただ?」
「夏目さんのことが気になって……。できれば出入り禁止が解消されればいいなと……」

 私はしどろもどろに答えながら、また失敗をしてしまったのだと痛感していた。谷口先生に不倫の件を言ってどうしたかったのか。谷口先生が脅しととるのももっともだ。
 ただ、許せなかった。谷口先生が飄々としていることが。夏目さんだけが被害を被ったことが。

「夏目さんの出入り禁止はもう終わったことだよ。今更取り消しはしないつもりだ」

 私は絶望が後ろから忍び寄る足音を聞いた。
 夏目さんの件は変わらない。なら、今回私がしたことで変わることは。

「鈴木さんも出入り禁止にはなりたくないよね?」

 ドクンと心臓が跳ねる。

「は、はい……」
「だったら、黙っていることだ。この話はもう終わりにしよう」

 谷口先生にドアを開けられ、私は部屋を出るしかなかった。
 ああ。私は馬鹿なことをしてしまった。
 久しぶりに泣きそうになって、私は上を向いてエレベーターホールの方へ歩いた。

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