MR(医薬情報担当者)だって恋します!
次の日からだ。
谷口先生が挨拶をしても返さなくなったのは。
始めは気のせいだと思うようにしたけれど、完全に違う。谷口先生は私を無視している。
医局でもそうだ。話を私には振らない。空気が重い。
「鈴木さん、何か谷口先生を怒らせたの?」
他社MRの一人がエレベーターホールで訊いてきた。その場にいた他のMRも心配の目や、好奇の目で私を見ながら話を聞こうとしている。その中に司もいた。
谷口先生は自分からは理由を言っていないようだ。不倫のことなので言えないのだろう。
「いえ、よく分かりません。もしかしたら何か失礼なことを知らず知らずのうちに言ってしまったのかもしれません」
私はしらを切る。司の私を見る目が心配からか曇った。
「そうなの? 謝って許してもらったら? 出入り禁止までは行ってないんだから」
「そう、ですね」
たぶん謝ったところで谷口先生は許しはしないだろう。
でも、どういうつもりなのだろう。私が不倫のことを言ってしまえば困るのは谷口先生の方なのに。それとも私は言わないと、MRは何もできないと思っているのだろうか。分からない。
私は無視をされるのは構わない。確かに医局に行きづらいけれど、それでも出禁ではないから他のドクターへの宣伝が禁止されてる訳ではない。
ただ、谷口先生は医局長だ。他のドクターにまで何か処方を左右されるようなことをされるとまずい。
「谷口先生。私が何か先生の気に触ることを言ってしまっていたのなら、申し訳ございませんでした」
腎臓内科の医局。数人のMRとドクター達の前で、私は形ばかりの謝罪をした。これで何かが変わるとは思えないが、これだけ証人のいる前で謝ったのだから、谷口先生ももしかしたら何か反応を返してくるかもしれない。私は谷口先生の返事を待った。
「なんのことだい? 鈴木さんが何かしたと? 僕は分からないなあ。謝る必要なんてないけれど?」
谷口先生は笑顔でそう言った。その場の温度が下がった。空気が張り詰める。
私は今後も谷口先生から無視されるだろうことを受け入れるしかなくなった。