MR(医薬情報担当者)だって恋します!

***


 谷口先生が無視をするようになったからといって、私が挨拶をしないというわけにはいかない。
 私は素通りする谷口先生に対しても毎日頭を下げ続けた。これで済むなら何度でも頭は下げられる。しかしやはりそれだけでは済まなくなった。

 ある日医局に行くと、説明会の日程が貼ってあった。いつもは誰かしらドクターが声をかけてくれるが今回は全くなく、そしてさらに空いている日に千薬の名前を書こうとすると、

「ああ、千薬さんは名前、書かないで。処方は出てるし他の会社に譲ってあげて下さい」

 と谷口先生の声がした。私が後ろを振り返ると、何とも言えない笑みを張り付かせた谷口先生がいた。
 薬の新しい情報を伝えるためにも説明会は定期的にいれたい。それが許されなくなった。これでは出禁とあまり変わらない。
 私は医局を出て唇を噛んだ。

 さらに。
 エクサシールの処方が落ちた。私は薄々腎臓内科の処方が落ちたからだろうとは思っていた。

「鈴木さん。最近谷口先生に避けられているんだって? 他社MRが言ってたけれど何かしたの? なんで僕に言ってくれなかったんだい?」

 さすがに慌てた今野さんが私に言ってきた。
 私はどこまで話していいか迷った。

「……夏目さんの出入り禁止について、少し意見をしました」
「え? どうしてそんな」

 今野さんは珍しく嫌そうな顔をした。

「同じ女のMRとして、なんだか気になって……」
「うーん。それで処方が落ちたのなら、今回は鈴木さんかなり失態だよ。どうしようかな。……分かった。腎臓内科には僕が行くようにするから。教授に掛け合って入っている自主研究をもっと進めるように言ってもらおう」

 今野さんの言葉にさすがに私はうなだれて、

「申し訳ございませんでした」

 と頭を下げた。

「まあ、鈴木さんはいつも頑張ってくれてるから今回は大目にみるよ。引き続き他の科での営業頑張って」
「分かりました」

 腎臓内科から外されたことは悔しいが仕方ない。自業自得だ。私は今回はおとなしく頷くしかなかった。
< 217 / 238 >

この作品をシェア

pagetop