MR(医薬情報担当者)だって恋します!
その日、司からも電話で訊かれた。
「谷口先生とうまく言ってないみたいだけど、何かあったんだろ?」
司は「あったの?」ではなく、「あったんだろ?」と言った。私は答えに窮して少し黙った。
「まさかとは思うけど、夏目さんの件で何か言ったとか? 不倫のこと持ち出してないよな?」
私はますます困って言葉が出せなかった。
沈黙を肯定だととった司は、
「あのさ、何で俺に相談しなかったの?」
と低い声を出した。
「俺ってそんなに頼りない? 信頼ない?」
「違っ! そういうわけじゃ」
私は咄嗟に答える。
「そうかな? 今だって、理緒、かなりキツい立場にあるのに俺に何にも言ってこなかったじゃん」
「だって司に迷惑かけたくない!」
「迷惑なんかじゃないよ。理緒が苦しんでるのに何もできないことの方が悔しくて悲しいよ」
司の声は明らかに苛立ちを含んでいて、私はまた黙った。確かにもう少し司を頼った方が良かったのかもしれない。司に相談していたら、谷口先生に不倫のことまでは持ち出さなかったかもしれない。いや、それでも言っただろうか。
「理緒。俺は理緒に信頼されてないと感じる時が一番悲しい。だから、きつい時は頼って欲しいよ」
司の声は切なげで、なんだか聞いていて涙が出そうになった。
「ごめん。分かった。ちゃんと司に言う」
「うん、そうしてくれると嬉しい」
「……司、今週末会える?」
「会えるよ。理緒の話、聞かせてもらえる?」
「うん……」
私は司に話すことを決意して、電話を切った。
腎臓内科の医局には行かなくなったが、エレベーターホールで挨拶や薬名のコールはしていた。谷口先生の前では黙っていても、エレベーターホールで二人のときは話してくれるドクターもいる。そんなときは自分のやってきたことは無意味ではなかったと思える。
「鈴木さん」
声をかけてきたのは夏目さんだった。谷口先生が私を無視しているのを知ったのだろう。夏目さんの目は責めるようなそれでいて憐れむような複雑な光を宿していた。