MR(医薬情報担当者)だって恋します!

谷口先生という人2

 私は逃げかもしれないがなるべく谷口先生と会わないように行動した。
 下手に刺激をしても良くない。
 他の科は普通に回る。腎臓内科のある10階だけ、なるべくドクターの出入りの少ない時間にエレベーターホールに立つ。正直営業的にはよろしくないが、仕方なかった。

 ところが他の階のエレベーターホールでドクター達が来るのを待っている時、他社MRから良からぬ噂を耳にした。谷口先生が夏目さんを悪く言って回っているらしい。

「どんな風に言ってるんですか?」
「うーん。それは……」

 私の問いに他社MRたちは言葉を濁す。

「教えてください」
「その……夏目さんが営業のとき色目を使っているって。谷口先生も使われたと……」

 私は唖然としてしまった。夏目さんにアプローチしてきたのは谷口先生だというのに。

「皆さんはそれを信じるんですか? 夏目さんはサバサバしていて男勝りなところがありますよね? 私は夏目さんが色目を使うなんてありえないと思います!」

 私の声が自然と大きくなる。

「いや、僕は夏目さんがそんな人ではないって思ってるよ?」
「ただね、谷口先生が言ってるとなるとね、そちらも信じないわけにも……」

 私は唇を噛んだ。

「夏目さんが女性だから、だからこんな風に言われないといけないんですか?」

 私の問いかけに彼らは黙る。私は悔しくて身体中から火が出そうに熱くなるのを感じた。
 夏目さんをそういう風に言ったのだから、次は自分かもしれないとも思った。
 私は不倫のことを黙っていていいのか、自問するようになった。

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