MR(医薬情報担当者)だって恋します!

 循環器内科と神経内科で講演会のプリントをドクターたちに配り、階段で上の階へ上がっては営業することを繰り返した。
 そのときだった。
 上から谷口先生が下りてきてすれ違う形になった。

「……お疲れ様です」
「久しぶりだね、鈴木さん」

 谷口先生はわざとらしいほどの笑顔を浮かべていた。そして。

「言わないと約束するならエクサシールはまた出してあげるよ?」

 と耳打ちした。私は周りに誰もいないのを確認してから、

「私は言うつもりはありません。でも、谷口先生の夏目さんへの仕打ちはよくないと思います」 

 と答えた。

「君は僕が怖くないのかい?」
「怖いです」

 私は即答する。

「ならなんで……」
「私は自分に恥じないような行動をしたいだけです」

 言いながら自分は強くなったなと思った。谷口先生から笑みが消えて、私を見る目には冷たい炎が宿った。

「ふん」

 谷口先生が下りて行ったあと、私はしばらく立ち尽くしていた。膝が笑っていた。
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