MR(医薬情報担当者)だって恋します!
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処方された薬を飲み切るころには私の咳は止まっていた。
「おう。咳止まったようだな。体調はどうだ?」
エレベーターホールにいると橘先生が話しかけてきた。
「先生のおかげですっかりいいです。ありがとうございました!」
「そりゃよかった。……まあ、慣れない営業で無理してるんだろ。ほどほどにな」
橘先生はそう言って、ファイルを持った手を挙げると自室に入っていった。
私は。
橘先生の言葉にうるっとして感動していた。気遣いの言葉がもらえるとは思ってなかったのだ。
橘先生が聴診器を胸に当てていた時のことを思い出す。真剣な顔だった。ちゃんとドクターの顔だった。私は橘先生に診てもらって本当によかったと思った。
私は自分の悪い癖をこの時すっかり忘れていた。
「何? 鼻赤いけど、どうしたの?」
呼吸器内科の医局から出てきた鈴木が驚いたように私を見た。
「べ~つに。ちょっとごみが目に入っただけ」
「ふ~ん」
鈴木は訝し気に私を見たままそう言ったけれど、それ以上は追及してこなかった。