MR(医薬情報担当者)だって恋します!

兄からの電話

 エレベーターホールでドクターを待っている時間は相変わらず苦しい。
 沢野先生の言葉を思い出して、「無駄ではない」と自分に言い聞かせても、顔は覚えているはずなのに未だに挨拶を返してくれないドクターがいる。まるで私などいないように素通りしていくドクターを見ると心が痛んだ。

『お前が無能だからだよ』

 空耳がする。

 一昨日、兄から珍しく電話があった。

『お前、MRになったらしいな。薬学部でもないのにしっかりやれてんのか? でも、まあ、使い捨ての職業らしいからお前にはピッタリかもな』

 使い捨て。その言葉を聞いたとき、私は心臓をぎゅうっと掴まれたような気がした。兄は変わっていない。私の傷つく言葉を言わせたら、世界一だ。

「鈴木? 大丈夫? 顔が真っ青だけど」

 鈴木の声で現実に戻された。

「ああ。ごめん。大丈夫。なんでもない」
「なんでもない顔に見えないんだけど」

 鈴木の目が心配そうに私を見ていた。鈴木は意外と優しい。

「……一昨日、兄から電話があってね。私、兄、苦手なんだ。一昨日も酷いこと言われてそれを思い出しただけ」
「ふうん。鈴木、兄がいるんだ」

 いなくてよかったけどね。と心で呟きながら、私は頷いた。

「俺は一つ上の姉がいる」
「そうなんだ。……仲いいの?」
「え? まあ、普通だと思うけど」
「いいね」

 鈴木は何も悪くない。でも、私はなんだか自分が惨めな気分になって、

「私、そろそろ別のとこ行くね」

 とエレベーターホールから離れて階段を上った。
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