MR(医薬情報担当者)だって恋します!

 10階までの階段をもう少しで上りきるというところで、

「千薬さん」

 という女性の声と共に、腕を掴まれた。顔を上げると夏目さんがいた。

「えっと、夏目、さん……?」

 夏目さんとは話すのは名刺交換をして以来だ。

「千薬さんの、鈴木さん、だよね?」
「はい」

 夏目さんの真剣な目に私は射すくめられたように動けなくなった。夏目さんはクールビューティーな感じの、確か私より三年先輩のMRだ。

「別に、怒ろうとしてるわけじゃないから大丈夫よ。酷い顔してるから気になって。もしかして、営業で悩んでる? 新人で大学担当はつらいわよね」

 私はどんな返答をしていいかわからず、無言で頷いた。

「沢野先生も気にしてたわよ。私の名刺渡してたよね? 携帯の番号も書いてたと思う。あまり悩みすぎるとつぶれちゃうわよ。夜なら出られるから、もし相談したいことがあれば電話してきていいから。まあ、私は他社MRだから今野さんに相談したほうがいいかもしれないけれど、女性だからわかることもあるしね」

 私は夏目さんの目を見つめて、

「ありがとうございます……」

 と呆けたように言った。

「あと、誰が見てるかわからないから、営業先ではそんな顔してちゃだめよ。あなた、隙が多い。気を付けたほうがいいわ」
「はい」

 夏目さんは、

「それじゃあね」

 と言って私から腕を離した。そして何事もなかったように階段を下りて行った。
 夏目さんはかっこいいな。私は思った。
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