MR(医薬情報担当者)だって恋します!

恋慕

 医局に入っても何をしていいか分からず、5分はいよう、と自分で決めていた時間が、少しずつ長くなった。ドクターが話しているのを他社MRと一緒に立って聞く。他社MRが相槌を打ったりその話に加わったりするのを見ているけれど、会話に自分から入るのは難しい。 
 私は毎日「いないよりましだ」と自分に言い聞かせて、焦りを抑え込んでいた。
 表情に焦りを出してはいけない。隙が多いと夏目さんにも言われたばかりだ。
 そう思ってドクターに接するときはなるべく笑顔を作る。でもふっと気を抜くと泣きそうになる自分がいた。もちろん実際には泣いていなかったけれど。

 毎日同じような日々が続く。
 仕事というものはそんなものなのかもしれないが、自分が役に立てているのかわからなくなるとどうしても不安になり、兄の言葉を思い出し、焦りが増す。今野さんと比べてはいけないとは思う。でも、病院長や薬剤部長、主要教授を押さえている今野さんと違って自分は仕事になっているのかと何度も不安になった。

「俺、ほとんど薬の話、したことないよ? 焦りすぎだよ、鈴木は」

 鈴木には言われる。そうかもしれない。新人のMRに何ができるというのか。それでも負けず嫌いな私はじりじりと焦りを毎日感じていた。
 医局での薬剤の説明会は経験を積んでほしいということで、ほとんど私がすることになったので、練習を入浴中にもするようになった。
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