MR(医薬情報担当者)だって恋します!

泣くところではない

「橘先生。シルビルナ、なかなか伸びあぐねています」

 私はしゅんとしながら橘先生に言った。
 橘先生は自室に私を招き入れる。

「そうか? 俺は少しは出してるぞ」
「少し……。ここの呼吸器内科では大川製薬さんが強いですものね」

 大川製薬は千薬社の前に同じようなタイプの薬を出していて、それがここの大学ではよく処方が出ていた。

「まあ、付き合いで出すのはあるわな。ドクターも人間だ。鈴木はそんなに処方がとりたいのか?」

 橘先生に名前を呼び捨てにされたことをくすぐったく思いながらも、

「とりたいです! 薬の良さでなくて、仲がいいから処方が出るなんて、納得いきません!」

 と私は即答した。橘先生は苦笑いをして煙草の箱を手に取った。トントンと一本取り出し、火をつける。

「MRは自社の薬のよさをアピールする。そして他社製品をけなす。どのMRもそうだ。ドクターからすれば、どの薬にも利点があり、欠点もあるなら、どれを使っても変わらないと思うことがある。どの薬が圧倒的に優れているなんてことはほぼない。そうなれば仲のいいMRの薬を出す気にもなる。極論だがな。最近、やたらと新患にと言ってるが、新患皆に出してもらおうなんて思うのはバカげたことだぞ」

 橘先生の言葉に、私はため息をついた。

「なんだ?」
「新患全員に出してもらおうなんてことは思ってないのですが……。やっぱり、大川さんのが出て、うちのが出ないのは悔しいです」

 私の言葉に橘先生は座っている椅子をくるりと回して、

「まあ、千薬さんからすればそう思うものかもな」 

 と言ってくれた。
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