MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「営業先で泣くほどきついんだろう?」
橘先生の言葉にますます涙が出て止まらなくなった。
ふぅと橘先生がため息をついて、煙草の箱を胸ポケットから取り出した。
橘先生が煙草の煙をゆっくりと吐く。
「やっぱり竹部と塩屋か?」
私はぶんぶんと頭を横に振る。
「じゃあ何だ? 言いにくいことか?」
「……自分でもよくわかりません。ただ、処方がなかなか出なくて。私がだめだから」
橘先生はまた煙草の煙を吐く。
「前にも言ったが、鈴木は一人で回ってるわけではない。処方が出ないのは鈴木のせいだけではない。今野さんも出せてないからだ。いいか? 思い詰めるな。それでなくとも千薬さんは女性MRが多くて、よく辞める」
私はハンカチで溢れる涙を拭いながら、ただ黙って橘先生の話を聞いた。
「鈴木がなんでそこまで自己肯定感が低いのか分からんが、全てを自分のせいにするな。それから、今野さんをもっと頼れ」
私は小さく何度も頷いた。
「悪いが、俺は鈴木の力にはなれない。処方を少し出すぐらいしかできん。……頼る相手を間違えるな」
橘先生の言うことは正しい。私は頼る相手を間違っている。それでも、やっぱり橘先生の所に行きたい。橘先生の言葉を聞きたい。慰めてもらいたい。
「……すみません……」
「酷い顔だぞ。少し落ち着いてから出た方がいい」
「はい……」
それからは橘先生は黙って机の方に向かい、仕事をしだした。私はただ、涙が止まるように努めた。
「……落ち着きました。ありがとうございました」
「はいはい。今度は元気な顔でな」
「はい……」
私は橘先生の部屋を出て、すぐにエレベーターホール奥のトイレに入ると顔を洗って化粧を直した。目が腫れている。
しっかりしなくては。
私は頬を叩いてトイレを出た。