MR(医薬情報担当者)だって恋します!

裏切りではないのに

 私は不安定なまま営業を続けていた。

 唯一の支えは橘先生の部屋。もう一つ挙げるなら、鈴木とのゲームだろうか。
 今野さんにはまだ悩んでいることを伝えられていなかった。

 呼吸器内科が一番医局に居づらい。竹部先生とどうしてもうまくいかず、竹部先生がいないのを見計らって森田先生と話をするぐらいだ。塩屋先生にはたまに声をかける。
 竹部先生を攻略しなければ。
 焦るばかりでうまくいかない。

 橘先生の部屋をノックする。
 二日に一回ぐらいは行かないとなんだか心が折れそうになるから。
 そして、こんな想いは抱いてはいけないと分かってるのに、橘先生と会話をする度に橘先生を好きになっていく。橘先生の部屋の家族写真が私を責める。でも、行かずにはいられない。

「どうぞ~」

 橘先生の声に私はドアを開けた。その瞬間。

「!」

 私はあまりに動揺してしまい、凍りついたように立ち尽くした。十秒あっただろうか。 

 私は、

「失礼しました」

 と言って、部屋を出た。

 橘先生の部屋には竹部先生がいて、一緒に煙草を吸っていた。
 私は。
 とにかく落ち着こうと階段を上る。
 同じ呼吸器内科のドクターだ。話もするだろう。だが。なんだろう。このもやもやした気持ちは。
 橘先生が私のした話を竹部先生にするはずはない。分かっているのに、なんだか不安になった。橘先生が竹部先生の味方についた気がして。味方も何も、同じ科のドクターなのだから、親しくて当たり前なのに。
 それに、あんな状態のまま部屋を出ていいわけない。私はノックをしてまで橘先生の部屋に入った。なのにすぐに部屋を出た。これでは、竹部先生がいるから出た、というのが竹部先生にも分かり、不快にさせるだけだ。
 ーーああ、また失敗した。
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