MR(医薬情報担当者)だって恋します!

「はい」
「千薬の鈴木です」
「……どうぞ~」

 私は慎重にドアを開けた。今日は橘先生一人だった。
 私がドアを開けると、橘先生はゆっくりと椅子を回してこちらを向いた。

「あの、昨日は申し訳ございませんでした」

 橘先生はああ、と頷いて息を吐いた。

「ああいう時は帰ったらだめだな。いい機会だと思って、竹部とも話せばいいんだよ」
「そうですよね。私、動揺してしまって……」
「……あの時の鈴木の目」

 橘先生の言葉に私は、

「え?」

 と橘先生を見る。橘先生の瞳には複雑な光が宿っていた。私は戸惑いながら橘先生の次の言葉を待つ。

「裏切られたって目をしてたな」

 私は橘先生の言葉に何も言えなかった。確かにそう思ったのは事実だったから。

「いいか、鈴木。鈴木はMRだ。竹部は俺の同僚だ。……どっちと親しいかなんて一目瞭然だよな。俺は裏切ってなどない。酷な言い方だが、勘違いはしない方がいい。俺と鈴木では立場が違うんだ」
「それは、分かっています」

 私はかろうじて言葉を紡いだ。

「だったら、なんで泣いてるんだ?」

 私は言われて目をおさえた。また涙が出ていた。橘先生の言うことはもっともなことなのに。

「すみません。これは、なんでもありません。私、分かってます。橘先生は事実を言ってるだけだって」
「ああ。……泣くな。俺が鈴木をいじめたような気になる」

 橘先生は苦しげに言った。

「すみません!」

 私は頭を下げて、涙を拭う。

「鈴木……。強くなれ。MRはきつい仕事だろうと思うよ。だから強くなれ」
「……はい……」

 私はもう一度涙を拭って、一礼した。

「今日は失礼します。シルビルナ、よろしくお願いします」
「おう。またな」

 橘先生は痛々しげに私を見て、苦い笑顔を浮かべていた。私はその顔を見ているのが辛くてドアを閉めた。
 私はこのままでは橘先生に好かれるどころか嫌われてしまうかもしれない。これじゃダメだ。もっともっと強くならないと。
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