MR(医薬情報担当者)だって恋します!

橘先生なりのやさしさ

 塩屋先生の態度は今も以前とあまり変わらない。
 あんなに語ってくれたのに、医局で話しかけてもそっけないし、処方は相変わらず出してくれない。やはり竹部先生と同様、攻略に苦労していた。
 ただ一つ変わったことがある。こちらから話しかけたときはつれないのに、なぜか塩屋先生は話を振ってくるようになった。小さな変化だが、私は嬉しく感じていた。

 だから今野さんから言われたときは耳を疑った。

「ええと、鈴木さん。もう、竹部先生と塩屋先生には営業しなくていいから」
「え?」

 意味が分からなかった。

「僕があの二人には営業するから、心配しなくていい。その……橘先生に言われてね。鈴木さんが苦労してるのが可哀想だから営業外してあげて欲しいと。すまなかったね、気付かずに」
「た、橘先生が……?」

 私は信じられない気持ちで聞き返した。

「うん。橘先生はよく見てらっしゃるね。僕も悪かったんだよね。僕があの二人が苦手なもんだから、鈴木さんに無理させる形になってしまった」

 私はきゅうと眉を寄せて自分の指先を見た。私の指は震えていた。

「鈴木さん?」
「私が二人を攻略できないからですか? だから外すんですか? それなら、仕方ないと思えます!」

 今野さんは私の反応に困ったように眉を下げた。

「そういう訳じゃないんだよ」
「私、橘先生にそんなこと頼んでないです! 頼んでないのに……!」

 私の目からは悔し涙が溢れた。

「塩屋先生とは少しだけ以前より話せるようになりました。口は悪いから傷つくことも多いけど、でも少しの変化が嬉しいのに。竹部先生には確かに嫌われています。でも、私は竹部先生に営業したくない訳ではありません!」
「鈴木さん……」
「私、午後、橘先生と話してきます」

 今野さんはため息をついた。

「そうか。うん。分かった。くれぐれも橘先生を怒らせないようにな」
「はい」

 私は燃えるような目で頷いた。
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