MR(医薬情報担当者)だって恋します!
私は早めに昼食をとると、まず橘先生の部屋を目指すことを考えた。こういう日に限って雨がザーザー降り。速度規制の都市高速の運転中、私はいつもよりイライラするのを止められなかった。
橘先生は私を気遣ってからだとは思う。
でも、私は二人の先生から逃げるのは嫌だ。
はあはあ息を切らして階段を上る。
落ち着かないとと自分に言い聞かせて。
橘先生の部屋の前に立ち、私は冷静になろうと深呼吸を繰り返す。
ノックをする手が震えた。
「はい~?」
「千薬の鈴木です」
「どうぞ~」
柔らかい返事に勇気をもらってドアを開けた。
今日も橘先生一人で、私は少し安堵した。
「あの! 橘先生!」
私は冷静になろうとしたが、目は正直で、橘先生を凝視してしまった。
「……例の話、今野さんから聞いたのか?」
「聞きました!」
私は間髪入れずに答えた。
橘先生は「そうか」と言いながら、煙草を出して火をつけた。
「私、塩屋先生からも竹部先生からも外されたくありません!」
言い切った瞬間、涙が落ちて、私は咄嗟にぐいっと拭った。
泣くな! 私!
「鈴木は俺にどうして欲しいんだ? こないだも竹部に無視されたとか、塩屋にきつく言われたとかで、部屋に来ていたじゃないか」
それは事実だった。
「鈴木がきついみたいだから、俺は二人から担当外すように言った。でも鈴木はそれは嫌だと言う。ここは泣くところじゃない。泣くほど辛いならもうMRをやめるしかない。俺は医師で鈴木はMR。それ以上でも以下でもない。どうしてやることもできない。けれど、鈴木の涙を見ると俺だって心が痛むんだよ」
橘先生の言うことはもっともであり、やさしさも感じられた。私の目にまた涙が浮かぶ。
「す、すみません。私、先生に甘えてました。橘先生なら何を言っても受け止めてくれる気がして……」
橘先生は煙草の煙を吐いて目を瞑った。
「泣きながら言う事ではないのは分かってます。でも、やっぱり二人の担当を外されたくない! 私、頑張りますから!」
「そうか……。きつくてもそれでも外されたくないと言うんだな?」
「はい!」
「だったら泣くんじゃない。次から泣きに来るんだったら帰ってもらう。話は聞く。でも泣くな。ここには営業に来ていることを忘れるな。いいな?」
「……はい!」
私の涙はしばらく止まることがなく、橘先生は気まずそうに煙草を吸っていた。
「あの、私、頑張りますので、これからもよろしくお願いします」
そう深くお辞儀をすると、
「おう。忘れるな。俺は鈴木の味方ではないかもしれない。だが、個人的には頑張って欲しいと思っているよ」
と橘先生は言った。十分な言葉だった。
「それと……」
部屋を出ようとする私に橘先生が声をかけて来た。