MR(医薬情報担当者)だって恋します!
「はい?」
「俺の勘違いなら謝る」
橘先生の言葉に、私は何を言われるのだろうと不安になる。
「な、何ですか?」
「その……。鈴木はドクターみんなをそんな目で見てるのか?」
「え?」
私の心臓がドキンと鳴った。
「それとも……俺が好きだからそんな目で見るのか?」
びくりと体が硬直した。
気付かれた! 私の想いに気付かれてしまった!
心臓が止まりそうになる。
「……分かってるとは思うが、俺には妻子がいる。鈴木には何もしてあげられないんだよ」
少し苦しげに橘先生は言った。
「わ、分かってます」
「俺はまだいい。変な気も起こさないからな。だがドクターによっては違う。言い方は悪いがセフレにされることもあるんだぞ。鈴木は女だ。もっと危機感を持ってくれ」
橘先生の言葉には深いやさしさがあった。私は橘先生の心配をありがたいと思った。
「分かりました。気をつけます」
「そうしてくれ」
私は明確に振られた。それは橘先生の真摯な心からだ。
私は。
「橘先生。私、先生のこと諦めます。でも、最後にわがまま聞いてください」
「なんだ?」
私は少し躊躇いながらも、
「キスしてください」
と口にしてしまった。
橘先生はゴホッとむせた。
「鈴木、俺の話を聞いていたのか?」
「思い出が欲しいんです」
「鈴木。お前はこれからも営業でここに来る。だから、気まずくならない方がいいんだ。今のは軽率な発言だぞ」
私はうなだれて、
「そう、ですね」
と言って頭を下げた。
「すみませんでした」
橘先生は少し黙って、席を立った。私は驚いて橘先生を見る。橘先生は私の頭をぽんぽんと撫でた。
「これで勘弁してくれ」
私は泣きながら微笑んだ。
「十分です。ありがとうございます」
「これで俺のことは忘れろ。でも、この部屋に来るのを躊躇うことはない。営業にくるのはMRの仕事だ」
「はい! シルビルナの宣伝に参ります」
「ああ。それでいい。二人のドクターの担当の件だが、鈴木が頑張れるなら頑張ってみろ」
「はい!」
私は決意を新たに頷いた。
「今野さんには鈴木のフォローをしっかりするように言ってくれ。じゃあ、またな」
「はい」
私は一礼して橘先生の部屋を出た。
橘先生に触られた頭が熱い。でも、この恋はダメだ。諦めよう。橘先生を苦しめないためにも。