MR(医薬情報担当者)だって恋します!


***


「鈴木さん」

 呼吸器内科の事務員の田沼さんから呼ばれて、偶然一緒にいた私と鈴木は、

「はい」

 と同時に返事をした。そしてお互い顔を見合わせる。

「あ、アオハナさんの鈴木さんです」

 鈴木が一度私を見て、呼吸器内科の医局に入っていく。
 なんだ、私じゃなかった。
 私は最近こういうこと多いな、と思いながらエレベーターホールでドクターたちを待つ。
 私の実力がないからというのはもちろんある。でも、やっぱり男女の差を感じてしまうのだった。大学のドクターたちは自分より年下で女の私から薬の情報を好んで聞くことは少ない。
 鈴木が戻ってきた。

「わりぃな、俺で」
「別に、鈴木が謝ることじゃないし」

 そう答えながらも、なんとなく仏頂面になってしまう。

「ふ、変な顔」
「うるさいよ」

 そんなやり取りをしている私たちを見ていた他社のMRが、笑いをかみ殺していた。

「鈴木さんたちって仲がいいよね」

 一人のMRに言われて、私と鈴木は顔を見合わせた。

「そうですかね」

 私の返事に、

「新人同士というのもあるだろうけど、仲いいよ。見てて微笑ましいね」

と言われた。
 なんだか恥ずかしくなる。鈴木をちらりと盗み見ると鈴木はやや困った顔をしていた。

「苗字も同じだし、結婚しちゃうのもありかもね?」

 悪乗りしたもう一人のMRの言葉に私は苦笑し、鈴木は控えめに、

「俺、一応彼女いますから」

 と言った。

「え? そうなの? 振られちゃったね鈴木さん」

 話を振ってきたMRがやや気まずそうに言った。私はあいまいに微笑む。別に鈴木とは同期なだけでなんでもないのに、こんな言われ方をするとなんだか悔しい。

「鈴木は彼氏いないの?」

 鈴木が私に訊いてきた。

「いない。っていうかいたことない」

 私の言葉にその場にいたMRが一斉に私を見た。そして、なんとなく納得するような顔をした。自分が地味なのはわかっているけれど、こんな反応をされるとさすがに傷つく。ここまで正直に言う必要はなかった、と少し後悔。

「……ふーん」

 鈴木も訊くんじゃなかったと気まずそうだ。

「あ、でも、千薬さんの前のMRさんみたいにここのドクターと結婚するという手もあるよね? もしかして、鈴木さんもそれを狙っているとか?」

 話が段々ややこしくなってきた。医局になかなかドクターが戻ってこないので暇を持て余しているMRたちの格好の餌食になっているのは明らかだ。

「いえ、私はそんなことは考えたことありません」

 私はちらっとスマートフォンを取り出した。時間を見る。呼吸器内科のドクターに用事はあるけれど、まだ当分現れそうにない。この場にいるのが苦痛になってきた私は、

「今野さんが呼んでますので」

 と嘘をついて階段へ向かった。
 それにしても。前任のMRが結婚退職だとは聞いていたけれど。まさか営業先のドクターと結婚だったなんて。ちょっと驚きだった。


< 7 / 238 >

この作品をシェア

pagetop