MR(医薬情報担当者)だって恋します!
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大学病院での営業は、医局のある廊下から伸びた先のエレベーターホールで、ひたすらドクターが通るのを待つ時間が長い。ドクターがうろうろしている時間帯にはエレベーターを使うのも憚られるため、10階まである医局棟の階段を上り下りしては、エレベーターホールで待つの繰り返し。
「鈴木さん、じゃあまたあとでね」
今野さんが手を上げて去っていく。
アラフォーの今野さんは、お腹周りが少し大きいけれど、軽快なフットワークで階段を上がっていった。
今野さんは大学でも強いと評判のMRだ。
目当てのドクターが通ると、さっと近づいてドクターの足並みに合わせて営業をする。今野さんが声をかけた場合は大概のドクターは話を聞いてくれる。でも、足を止めることはまれだ。病院のMRの営業はそれが当たり前。
それでもその短時間で今野さんは必要な営業をしているからすごい。
MRの営業は特殊だと思う。
ドクターたちはMRを同じ人間と思っていないと感じるときがある。
見下すような目で見られたり無視されたりすると心が騒つく。
よく母がそんな目をして私を見ていたのを、思い出すのだ。
就職活動で思うような結果が得られず自信をなくしていたとき、母は私に言った。
「就職すらできないの? ほんとあんたは落ちこぼれね。まあ、分かるけどね。私が社長ならあんたみたいな子雇わないもの」
最も傷ついた言葉だった。