MR(医薬情報担当者)だって恋します!
中に入ると食欲をそそられるようないい香りがした。漢方薬っぽい匂いもする。
「へえ、こんな店知ってるんだね」
丸いテーブルについて、メニューを見る。コース料理も気になるけれどその値段の方がさらに気になり、今回はやめることにした。
「なんか鈴木のオススメとかある?」
「鳥肉が入った薬膳粥、俺は好きなんだけど」
「じゃあ、私それにしよう」
「俺もそうしようかな」
「鈴木はもっとガッツリなものいったら?」
「いや、今日はいいや。寝不足だし」
運ばれてきたお茶を飲むと、後味がほの甘い、飲んだことのない味がして驚いた。
「不思議な味のお茶」
「慣れると癖になるよ」
そうかも、と思いながらまた飲む。
「それで、今日はなんで食事に誘ってくれたの?」
「ああ、前から行きたいなと思ってたんだけどね。なかなか言い出せなくて」
「そうなの?」
「なんかさ、鈴木はもう少しリラックスして営業した方がいい気がしてさ」
「ああ、それ? 私、そんなに余裕ないかな? 鈴木は結構気、抜いてる感じだもんね」
「それは言い過ぎ。まあ、でも、うちは上司の白崎さん、うるさくないしね」
「今野さんもうるさいわけじゃないんだけど……。でも、なんか期待されてる感はあるかな」
「それは分かるかも」
私はちらっと鈴木を見て、どうしようか迷った挙句、口を開く。
「……私ね、どこまで頑張ればいいか分からないんだよね」
鈴木は少し首を傾げて次の言葉を促す。
「前、存在意義について話したの覚えてる?」
「ああ、あの小難しい話」
「そう。私、家に居場所がなくてさ。出来のいい兄と、その兄を溺愛する母に、いつもお前は能無しだって言われてて」
「父親は?」
「言いはしなかったけど、庇ってもくれなかった。気が弱い人で」
「じゃあ、家出て正解だったな」
「うん。わざと違う県に配属される千薬に入ったの」
「そっか」
頼んだ粥が運ばれてきて、私は一度話を切った。不思議な香りが湯気とともに漂ってくる。でも嫌な香りじゃない。卵やクコの実が入っていて、粥だが、なんだか色が鮮やかだ。
「美味しそう」
「だろ? まあ、食べよう」
蓮華ですくって、息を吹きかけて一口食べる。
「熱っ。でも美味しい」
鳥の出汁がよくきいている。薬膳料理というからもっと食べにくいのかと思ったら、ふんわりと優しい味だった。