MR(医薬情報担当者)だって恋します!

 エクサシールWの臨床データの資料を出して説明する。
「利尿剤との合剤なので、副作用として、頻尿がエクサシールと比べるとみられます」
「うん。でも、使い易そうだね」
「先生がWの方が合いそうだと思われた方にはWをお使いください」
「そうすることにするよ」
 私は資料を片付けようとして、何気なく机に置かれた沢野先生の指を見た。沢野は色白なので指も白く、そして長かった。関節が太くなかったら女性のようだ。

「どうかしましたか?」
「あ、いえ、沢野先生の指、長いなと思いまして」
「ああ、指ですか?」

 沢野先生は組んでいた指をほどいて、私の前でグーパーをした。
 あれ?
 私は軽い違和感を覚える。
 指輪がない。でも、結婚しててもつけてない人もいるよね、と思い直す。特にドクターは手を使うことも多いし。
「?」
「あ、いえ、すみません。私は趣味でピアノを弾くのですが、沢野先生の指はピアノ向きだなと思います」
「あ~、実は弾けます」

 誤魔化すために言った言葉に予想外の答えが返ってきて私は驚いた。沢野先生は珍しく照れたように笑っていた。

「そうなんですね! 私は指の間に水かきがないので、指と指の間は開くんですが、長さがないので弾いていて届かない音もあって……。先生の指、羨ましいです!」

 私が言うと、

「どれどれ?」

 と沢野先生は私の手首を優しく掴んで、自分の手と私の手を合わせて見た。突然のことに、私は目を見張る。頬が熱くなるのが分かった。

「本当ですね。僕の指と長さが……」

 無邪気に沢野先生は笑って私を見て、

「あ」

 と途中で言葉を切った。

「す、すみません!」

 沢野先生は慌てて合わせていた手を離し、謝る。その顔は、もとが白い分、分かり易く真っ赤だった。

「い、いえ、大丈夫です」

 私は自分の顔の前で両手を振って答える。
 なんだか沢野先生の反応にこちらが恥ずかしくなってしまった。
 途中になっていた資料の片付けを再開する。
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