MR(医薬情報担当者)だって恋します!
駅から数分坂道を上ると、もう入り口だった。
「今、11時ちょっと前かあ。時間的にどちらかしか回れないよ? どっちも案外広いし」
鈴木が言った。
「理緒はどっちが見たいんだ? 」
「動物園!」
「じゃあ決まりだな」
「それにしても、真夏じゃないのに暑いね。動物たちもこんなに暑いとまいっちゃうよね」
料金所でお金を払って中に入る。
土曜なので家族連れで来ている人が多くいた。
「象だ! なんだか眠そうだね」
「そういえばこないだ象にピアノを聞かせてるのテレビでやってたぞ」
「あ~見た、それ」
しろの言葉に私は反応する。
「象は耳も大きいからか、物凄く音に敏感らしいね」
しろと私が象の前に陣取るのに対し、鈴木はその少し後ろで象というより私たちを見ているようだった。不思議に思ったが、私は気にしないことにして、しろと一緒に次の動物の所へ歩いていく。
「鈴木さん? 退屈ですか?」
しろが鈴木を振り返って言った。
「いや~。俺は動物、物凄く好きってわけでもないですし、このくらいから見るのが丁度いいんです」
動物園に来て動物を適当に見るって、鈴木は何でついて来たんだろう。
「クマだ! 後ろ足で立ってる!」
「なんかもらえると思ってるんだろうな」
自然の中で出会ったら恐ろしい熊。でも動物園の熊は頭も良くてお茶目な感じだ。こういう熊も人間を襲うのかな。考えてしまう。
本当は檻の外で自由に生きる方がいいんだろうな。
「どうした?」
「しろは動物は自然にいる方がいいと思うよね?」
「どうだろうな。飼い慣らされるとその生活が楽に感じられるようになってくるかもしれない」
「どちらにしても、彼らは動物園の動物になってるんだよね。社畜になってる私たちみたい」
私の言葉に、しろはぽんぽんと私の頭を撫でた。
「今日は癒されに来たんだろ?」
「そうだったね」
ペンギンがプールの中を泳いでる。泳ぐのはとても早いのに、地上でのヨチヨチ歩きにギャップ萌えだ。
「可愛いなあ、ペンギン!」
「実は人間の先祖はペンギンだったという論があるらしいぜ?」
「そうなの?! 」
「いや、嘘だけど」
「しろのバカ!」
私のパンチをしろはかわして、私の頭に手をあて、パンチが当たらない距離をキープしている。
「ずるいよ! しろ!」
「次行こうぜ」
笑ってあしらわれて、昔と変わらない感覚に何となくこそばゆくなった。きっと私たちはこのまま変わらないんだろうな。
「あ、アザラシもいる! 目がつぶらで鼻をヒクヒクさせてるとこが可愛いよね!」
「鈴木に似てる」
不意に鈴木が口を開いた。
「え~? 私アザラシに似てる?」
鈴木の感覚はよくわからない。
今度はキリンのコーナーだった。
長い睫毛が優しそうな目を縁取っている。高いところにある木の葉をのんびり食べていた。
「私生まれ変わるならキリンがいいかも」
毎日がゆったり進みそう。のんびりマイペースに暮らせたらいいな。
「いやいや、鈴木はアレでしょう」
鈴木が次に見えてきたサル山を指差す。
「あそこでボスザルに楯突いてるメスザル」
鈴木の言葉に私は振り返る。
「もう、何なの、鈴木? さっきはアザラシに似てるって言ってたのに」
「見かけはアザラシ。性格はサル」
こめかみがひきつる。
「だったら自分は何なのよ?」
「は? 俺は人間」
ますますイラッとしたが、相手にするだけ馬鹿らしいと思い、
「次行こう、しろ」
としろに声をかけた。すると、
「いいコンビ」
としろが耳うちしてきた。
「どこが? ほら、トナカイがいるよ!」
動物園は思った以上に広くて結構歩いたけれど、動物に癒されたせいか、疲労はそれほど感じなかった。
「じゃあ、鰻食べに行こー!」