並んで歩くなら、あなたと
 教室に行くと、桃がひらひら手を振った。


「花菜、おはよ。須藤先輩に会った?」

「部活で会った」

「かっこよかった?」

「いつもと同じ顔だと思うけど、朝来たときしか見てないよ。水やりが終わったときはそれどころじゃなかったから」

「そうなの?」


 桃に世菜先輩が水をぶちまけた話をすると、大笑いした。


「ウケる。鈍くさいんだ」

「ほんとうだよ、もー。見てないとすぐ転ぶし」

「花菜って面倒見いい?」

「あんまり気にしたことないな。あ、でも中学のときに弟がいじめられてたから、相手を蹴り飛ばしたことある」

「なにそれ、ウケる」


 別に大した話じゃないし、そのままだ。



 中三のときに校舎の裏で、中一だった弟が柄の悪い三年生に絡まれているのを見かけたから、後ろから跳び蹴りしただけだ。

 親が呼ばれて、最初はママだけだったから相手の両親が偉そうにしてたし、私の担任や学年主任も私に「謝れ」と、弟には「君にも悪いところがあったんじゃないか」なんて言ってたけど、途中でパパが来たら途端におとなしくなった。ママは華奢で大人しいけど、パパは厳つくてはっきりものを言うから。

 結局、相手に頭を下げさせて、こっちも一応暴力を謝って解散した。

 ママは「私が小柄なばかりに……私の身長が五メートルあったら、ステイサムなら舐められないのに」とぼやいて、パパが笑っていた。

 私も柚希も、二人からは何も言われなかったけど、帰ったらおじいちゃんからちょっとだけ叱られた。


「そういうときは先生を呼ぶなり、瑞希に言うなりしなさいよ」

「……うん」

「デカい声で先生を呼ぶフリをするだけでもいいから。花菜と柚希に何かあったら、じいちゃんの寿命が縮んじゃうからさ」

「うん……ごめんなさい」




 ということをかいつまんで説明すると、桃はまた爆笑した。


「花菜は黙って座ってれば和風美人なのに」

「藤也にも言われる」

「つまり私と須藤先輩は相思相愛……?」

「違うから」


 突っ込んだところで先生が来た。

 窓の外を見ると、明るく晴れていて、気持ちのいい天気だ。

 先輩もちゃんと乾いてるといいんだけど。

 一限は体育って言ってたから、見えるかもしれない。

 茶色のふわふわの頭は、きっと教室からでもすぐに見つけられるだろう。
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