並んで歩くなら、あなたと
 校庭に行くと、校庭担当の部員たちが散らばっていたから、指示を出していた三年生に声をかけた。


「助かるわあ。じゃあ、一番向こうから植え替えてくれる?」


 苗は花壇の横に置いてあるというので、ゴミ袋だけもらって、校庭の反対側に向かった。


「先輩、並べるのお願いしていいですか?」

「了解」


 先輩に苗を並べてもらって、私は隣に屈んで植えていく。

 たまに世菜先輩の顔を見ると、いつもと全然違って真剣そのものの表情だ。

 ……パパが花の手入れをしているときの顔に、似ていなくもない。手つきは優しくて、丁寧だ。まあ、藤乃《ふじの》くんほどじゃないけど、それでもこの人に任せてよかったって思えた。


「由紀さん?」

「はい?」

「俺の顔に何かついてる?」

「んー、いつもそうしていればいいのにって思ってました」


 世菜先輩が不思議そうに首を傾げた。

 だから私は笑った。


「やっぱいいや。私と花の世話するときだけにして」

「何が?」

「かわいくない顔」

「なにそれ」


 先輩から目を逸らして、手元の苗を一つずつ植えていく。

 あとちょっとというところで、隣の花壇に校庭担当の先輩たちがやってきた。


「由紀さんも坂木《さかき》くんもありがとねー。……あれだね、由紀さん、思ったよりも仕事が丁寧だよね」

「思ったより?」


 しまった。つい突っかかってしまった。

 でも先輩はカラッと笑ってた。


「うん。由紀さんって部長に絡むときとか、坂木くんの相手とか雑だから、花の世話も雑だと思ってた」


 反論できなかった。藤也や世菜先輩に対する日頃の態度について言われたらぐうの音も出ない。でも、黙ったままではいられなかった。


「そりゃあ、うち、花農家ですからね。父が持ってきてくれた花を雑には扱えませんよ。……わ、笑わないでくださいよ」

「あはは、普段からそれくらいおとなしくしていればかわいいのに」

「ぐう」


 何を言っても笑われそうだから、世菜先輩を挟んで反対側へ移動した。

 でも世菜先輩は別に笑ってなくて、黙々と手を動かしている。


「先輩は笑わないの」

「笑わないよ」


 先輩は目を細めて私を見た。


「そもそも花を雑に扱う子は園芸部なんて地味な部活に来ないし、花菜(かな)ちゃんは水やりも道具を運ぶのも、全部丁寧にやってるだろ。俺は君が雑な女の子じゃないことくらい、知ってる」


 そう言って、世菜先輩は視線を手元に戻した。

 つられて見た先輩の節くれ立った指と、短い爪が土だらけになりながら苗の根元を押さえている。

 もう一度顔を見ると、目元が髪で隠れていた。でも、見なくてもどんな顔をしてるのか、分かる気がした。

 ……続きを植えよう。


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