並んで歩くなら、あなたと
「部長、先に行っててください。倉庫開けないと」
「それは副部長に頼んであるからいいけど……世菜、花菜のことよろしく」
「はい」
部長が苦笑して去っていったので、俺は花菜ちゃんの手を取った。
「花菜ちゃん、部活行く? それとも、ちょっと休んでからにする?」
「……部活行く」
「手、つないでていい? 俺、さっき棒倒しで怪我したから、転ばないようにつないでいてほしいな」
返事はなかったけど、手を握り返してくれたから、そのまま歩き出した。
中庭にある園芸部用の倉庫からホースとじょうろを取り出す。
今日は両方とも俺が持っていく。
ついでに、バインダーと花壇のリストも持った。
「……持つよ」
花菜ちゃんがやっと顔を上げた。
でも俺は首を横に振る。
「俺が持つ。今日は花菜ちゃんたくさん競技に出て疲れてるだろ? 俺は二つしか出てないから。……先輩に、かっこつけさせてよ」
そう言うと、花菜ちゃんは少し笑って俺の手を握り返した。
中庭を出ようとしたとき、部長の妹たちがやってきた。
「花菜、手伝いいる?」「花菜、今日は先に帰ってもいいけど」
「ううん、大丈夫。花の世話をしてるほうが落ち着くから」
「ふふ、お兄ちゃんそっくり」「坂木先輩、花菜のことよろしくね」
二人は笑って倉庫の方に向かっていった。
俺はまた花菜ちゃんの手を引いて、裏門へと向かった。
ホースを蛇口につなぎ、もう一つの蛇口からじょうろに水を入れた。
「花菜ちゃん、今日は水やりは俺がやるから、手入れが必要な苗があったらチェックしておいてくれる? 週明けから、やっていきたいから」
「はい、わかりました」
バインダーを渡すと、花菜ちゃんは小さく頷いた。まだ目元が少し赤いけど、大丈夫かな。
俺はいつもより少しだけゆっくりと水を撒いていく。
ホースを絡ませないように、俺と花菜ちゃんの動線に引っかからないように。
寄り添うようについてくる花菜ちゃんがかわいくて、つい見てしまいそうになるけど、俺はそんなに器用じゃない。よそ見をしたらきっと俺か花菜ちゃんに水をかけてしまうから、気をつけて水を撒く。
「先輩」
「んー?」
「手前側、もう少し多めに水をあげてください。葉っぱが乾いてる」
「了解」
「あと、あっちの角の苗ですけど、虫に食われてますね」
「わ、ほんとだ。周りも確認しといて」
「はい、先輩」
さっき花菜ちゃんが言っていた『花の世話してるほうが落ち着くから』というのは強がりじゃなかったらしい。
あれこれ話しながら水やりをしているうちに、花菜ちゃんはすっかり元気になって、花の様子を見て回っていた。
元気になってくれて嬉しい反面、くっついて歩いていたのが離れていってしまってちょっと寂しい。
一通りの水やりと花の確認を終えて倉庫に戻ろうとしたら、花菜ちゃんが立ち止まった。
「先輩、この後用事あります?」
「ない」
「じゃあ疲れたから、ちょっとだけ座っていってもいいですか?」
「もちろん、いいよ」
洗い場にホースとじょうろを置いて、隣の段差に腰を下ろすと、花菜ちゃんが横に座った。……思ったよりだいぶ近い。腕がぶつかってるっていうか、重なってる。
「花菜ちゃん?」
「ごめんなさい。私のせいで、先輩まで呼び出されて、怪我させられて」
「別にいいよ。ありがとう、俺のために怒ってくれて」
「……ううん。私が勝手にイライラしただけだから」
花菜ちゃんは膝を抱えて、うつむいてしまった。
俺は隣で同じように膝を抱えて、さっきまで二人で世話をしていた花壇を眺めた。
花が夕日を受けて、穏やかな初夏の風に揺れていた。
「どっちかっていうと」
言葉を選ぶ。
今、なんて言えばこの強がりでかわいい女の子は顔を上げてくれるだろう。
どうしたら俺のことを見てくれるだろう。
「花菜ちゃんが怒られてるときに、庇えてよかったなって思う」
「なにそれ」
くぐもった声が聞こえたけど、顔はまだ上げてくれない。
ほんの少しだけ、彼女にもたれかかった。
「だって、絶対理不尽だったじゃん。花菜ちゃんだけ怒られてさ。だからそれはおかしいって言えてよかった。部長任せにしないで、俺が君を守るために行動できてよかった」
「……なんで」
「花菜ちゃんに笑っていてほしいから」
「先輩」
「うん」
やっぱり顔は上げてくれないけど、花菜ちゃんが俺のほうにもたれかかってきた。
いきなりだったから倒れそうになったけど、さすがにかっこ悪いからお腹に力を入れて彼女を支えた。
「ありがとう、かばってくれて」
「どういたしまして」
「先輩、ごめんなさい。私のせいで怪我して」
「それはアイツが悪いだろ。それに大した怪我じゃないよ。どれもこれもかすり傷だ。俺は情けないし鈍くさいけど、男だからさ。ちょっとくらいの怪我なんて、なんてことないよ」
そう笑ったら、花菜ちゃんがやっと顔を上げてくれた。
ムスッとしてるし、目元も鼻も赤い。
それでも、きれいでかわいくて、どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。
初めて触れた頬は小さくて、柔らかくて、すべすべで、もっと触れたくて、もっと欲しくて身を乗り出す。
「それは副部長に頼んであるからいいけど……世菜、花菜のことよろしく」
「はい」
部長が苦笑して去っていったので、俺は花菜ちゃんの手を取った。
「花菜ちゃん、部活行く? それとも、ちょっと休んでからにする?」
「……部活行く」
「手、つないでていい? 俺、さっき棒倒しで怪我したから、転ばないようにつないでいてほしいな」
返事はなかったけど、手を握り返してくれたから、そのまま歩き出した。
中庭にある園芸部用の倉庫からホースとじょうろを取り出す。
今日は両方とも俺が持っていく。
ついでに、バインダーと花壇のリストも持った。
「……持つよ」
花菜ちゃんがやっと顔を上げた。
でも俺は首を横に振る。
「俺が持つ。今日は花菜ちゃんたくさん競技に出て疲れてるだろ? 俺は二つしか出てないから。……先輩に、かっこつけさせてよ」
そう言うと、花菜ちゃんは少し笑って俺の手を握り返した。
中庭を出ようとしたとき、部長の妹たちがやってきた。
「花菜、手伝いいる?」「花菜、今日は先に帰ってもいいけど」
「ううん、大丈夫。花の世話をしてるほうが落ち着くから」
「ふふ、お兄ちゃんそっくり」「坂木先輩、花菜のことよろしくね」
二人は笑って倉庫の方に向かっていった。
俺はまた花菜ちゃんの手を引いて、裏門へと向かった。
ホースを蛇口につなぎ、もう一つの蛇口からじょうろに水を入れた。
「花菜ちゃん、今日は水やりは俺がやるから、手入れが必要な苗があったらチェックしておいてくれる? 週明けから、やっていきたいから」
「はい、わかりました」
バインダーを渡すと、花菜ちゃんは小さく頷いた。まだ目元が少し赤いけど、大丈夫かな。
俺はいつもより少しだけゆっくりと水を撒いていく。
ホースを絡ませないように、俺と花菜ちゃんの動線に引っかからないように。
寄り添うようについてくる花菜ちゃんがかわいくて、つい見てしまいそうになるけど、俺はそんなに器用じゃない。よそ見をしたらきっと俺か花菜ちゃんに水をかけてしまうから、気をつけて水を撒く。
「先輩」
「んー?」
「手前側、もう少し多めに水をあげてください。葉っぱが乾いてる」
「了解」
「あと、あっちの角の苗ですけど、虫に食われてますね」
「わ、ほんとだ。周りも確認しといて」
「はい、先輩」
さっき花菜ちゃんが言っていた『花の世話してるほうが落ち着くから』というのは強がりじゃなかったらしい。
あれこれ話しながら水やりをしているうちに、花菜ちゃんはすっかり元気になって、花の様子を見て回っていた。
元気になってくれて嬉しい反面、くっついて歩いていたのが離れていってしまってちょっと寂しい。
一通りの水やりと花の確認を終えて倉庫に戻ろうとしたら、花菜ちゃんが立ち止まった。
「先輩、この後用事あります?」
「ない」
「じゃあ疲れたから、ちょっとだけ座っていってもいいですか?」
「もちろん、いいよ」
洗い場にホースとじょうろを置いて、隣の段差に腰を下ろすと、花菜ちゃんが横に座った。……思ったよりだいぶ近い。腕がぶつかってるっていうか、重なってる。
「花菜ちゃん?」
「ごめんなさい。私のせいで、先輩まで呼び出されて、怪我させられて」
「別にいいよ。ありがとう、俺のために怒ってくれて」
「……ううん。私が勝手にイライラしただけだから」
花菜ちゃんは膝を抱えて、うつむいてしまった。
俺は隣で同じように膝を抱えて、さっきまで二人で世話をしていた花壇を眺めた。
花が夕日を受けて、穏やかな初夏の風に揺れていた。
「どっちかっていうと」
言葉を選ぶ。
今、なんて言えばこの強がりでかわいい女の子は顔を上げてくれるだろう。
どうしたら俺のことを見てくれるだろう。
「花菜ちゃんが怒られてるときに、庇えてよかったなって思う」
「なにそれ」
くぐもった声が聞こえたけど、顔はまだ上げてくれない。
ほんの少しだけ、彼女にもたれかかった。
「だって、絶対理不尽だったじゃん。花菜ちゃんだけ怒られてさ。だからそれはおかしいって言えてよかった。部長任せにしないで、俺が君を守るために行動できてよかった」
「……なんで」
「花菜ちゃんに笑っていてほしいから」
「先輩」
「うん」
やっぱり顔は上げてくれないけど、花菜ちゃんが俺のほうにもたれかかってきた。
いきなりだったから倒れそうになったけど、さすがにかっこ悪いからお腹に力を入れて彼女を支えた。
「ありがとう、かばってくれて」
「どういたしまして」
「先輩、ごめんなさい。私のせいで怪我して」
「それはアイツが悪いだろ。それに大した怪我じゃないよ。どれもこれもかすり傷だ。俺は情けないし鈍くさいけど、男だからさ。ちょっとくらいの怪我なんて、なんてことないよ」
そう笑ったら、花菜ちゃんがやっと顔を上げてくれた。
ムスッとしてるし、目元も鼻も赤い。
それでも、きれいでかわいくて、どうしても手を伸ばさずにはいられなかった。
初めて触れた頬は小さくて、柔らかくて、すべすべで、もっと触れたくて、もっと欲しくて身を乗り出す。